◇恋心なんて知らない先輩 ページ30
真波山岳side
『尽八と山で勝負したの？』
「はい。敗けちゃいましたけど......」
『そっか.....。尽八の走りって無駄がないからねー』
「抜ける隙が全然なかったですよ〜」
やっぱり、東堂さんは速くて滑るように登る、音もなく加速する。......無駄なのは口数だけだったけど。
『無駄なのは、あのトークだけだよ』
「(この人は言っちゃうんだ.....)」
東堂さん達の追い出しレースの後、一人で帰ろうとする湖羽先輩を彩芽さんが止めて、「真波君、湖羽さん送って行ってください」と言われたために先輩を送ることになった。卒業まで残り数ヶ月で、先輩といられる時間も少なくなってきている。
だから、今湖羽先輩と一緒に帰るのは嬉しくて、申し訳ないよと断る先輩を見て、ショックを受けた。彩芽さん達がすごい勢いで説得して「わ、わかった」と頷いた湖羽先輩。ホッとすれば、奥山さんに「真波、分かりやすい」と言われた。そんなに分かりやすいですかね〜？まあ、湖羽先輩には伝わらないですけどね？
『でも、かっこいいんだよねぇ.....』
「！.....そう、ですね」
『走りはカッコよくて、見惚れちゃうぐらいすごいんだ。何回も見てるけど、見るたびにカッコいいって思っちゃうよ。.....調子のるからあんまり言えないけどね.....？』
先輩がこの学校に来た理由は東堂さんの走りを見たから。
東堂さんの走りについて話す湖羽先輩は綺麗で.....、なぜか勘違いするように恋してるように見える。
水樹野が言ってた.....。
先輩が東堂さんの走りに惚れてなかったら俺と先輩は再会してなかったんだって。水樹野も湖羽先輩がこの学校に来てなかったら、箱学には来なかったって。
バレー部には湖羽先輩と千歳先輩に憧れた人が来てるんだって話していた。
俺もそう思う。
「(.......違うって分かっていても、湖羽先輩が東堂さんの事を話すのは嫌だ。恋じゃないって分かってるのに嫌な気持ちになるなあ)」
隣の先輩はいつも通りで、恋なんてしてないのに。
たわいもない話をして、その途中で先輩を見てれば気づいた湖羽先輩がふわっと笑う。
その度にドキドキして、隣の鈍感な先輩に気付かれるんじゃないかってぐらい自分から音がするんじゃないかって.....。
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作者名：夏菜沙 | 作成日時：2022年11月28日 21時
