◇菫色の結び紐 ページ4
noside
少年は、その表情に釘付けになった。
時が、止まっているのであろうと、錯覚してしまうのではないかと思うほどに息を呑んだ。
そして、その微笑みは自身に向けられているのだ。
彼女の瞳に自身の姿が写るのが見えた。
「おーい、大丈夫？」と止まった少年に、彼女は声をかける。不思議そうに顔を覗き込むようにして、少年は少し驚き彼女に向き直った。
気恥ずかしさから、思わず目線を下に逸らす姿があったが、彼女は特に気にした様子はない。
「突然何言い出すんだよ、お前っ.....！」
『だって、私は好きだと思ったから.....(それに、私の同期にも貴方と同じように白い髪の人がいる。だから、珍しいって感じないんだよなぁ)』
「.....！そうかよ.....」
『うん』
優しく微笑む彼女の真っ直ぐな言葉に少年は照れ、また視線を逸らした。両耳がうっすらと赤く染まっていた。彼女が、ふと少し難しい表情をしてから、少年に問いかけた。
『ねぇ、貴方。お腹が減るでしょ』
「あ、ああ」
その答えに彼女は、「やっぱり」と内心呟いた。
『(それに霊圧.....、これから多分もっと大きくなる.....死神になる素質は十分)』
「どうかしたのか？」
『ううん、何でもない』
彼女は、首を横に振って何でもないと言った。
死神になった方がいいとは、彼女は言わない。まだ、死神になる時ではないと彼女は思っているのだろう。霊圧を感じとり、彼女はなにかを考える。
『(今はまだ、いいかも知れないけど.....無意識に霊圧を出されると......多分周りを....)』
「？」
彼女は少年を見る。
見られていることに戸惑う少年は、「なんだよ」と彼女に言う。彼女は「ごめんごめん」と軽く謝りながら、自身の腕に着けていた薄菫色の髪紐を解いた。
髪紐を持っていない反対の手で、少年の手を取る。
「何すんだよ」
『これ、貴方にあげる』
「何で？」
少年の疑問に彼女は答えた。
「う〜ん、お守りにあげる」「お守り？」「うん」と淡々と話すだけで、霊圧の事は話さなかった。
『きっと、貴方の役に立つと私は思うんだ』
「よくわかんねェよ」
『うん、それでいいよ(今は......)。でも、多分貴方が声を聞いたら、押さえられないかも....』
「声？」
『.....いつかわかるよ』
そう曖昧に答えるだけだった。
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作者名：夏菜沙 | 作成日時：2023年9月17日 21時
