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忘れてはならない、悲しき姫様が生まれた日。
Aがその日を色濃く覚えている様に、高杉達も状況から言葉の一言一句まで覚えていた。
貴「…小太郎、」
雨など降っていなかった。
だけどAは全身が濡れて、桂と同じように泣いていた。
貴「小太郎、」
貴「泣かないで。…ね?」
全てを失った女の涙。
着物には赤や白などの染みがついていた。
貴「私は。…私はね?」
どんな戦場よりも生々しいその光景に、吐き気がする。
貴「大丈夫」
貴「うん…」
貴「大丈夫、だよ?」
なんて、自分に言い聞かせるようそう言って、笑顔を作ろうと上がった口角。
だがそれは出来上がることなくA自身の身体ごと崩れ落ち、桂が受け止めた。
桂「ッすまなかった…!!!」
桂「すまなかったっ。…A!!!」
力強くも繊細に抱きしめて、繋ぎとめるように何度も謝る。
Aは、そんな桂に何度も「違う」と否定しながらまた大きな涙を零し、その意識を手放した。
*
貴「…私ね、」
貴「寂しかったの」
目を覚ました頃には、既に月が昇っており
その控えめな光は愚かな残影を映し出す。
ぽつり。ぽつりと話す
淑やかな声に耳を傾けた。
貴「だって、…男の人ってやっぱり」
貴「男同士で騒いだり」
貴「悪戯したりして…」
貴「結局は男同士で居るのが楽しそうだもん」
___そんな事は無い。と否定しても
Aは躊躇いもなく首をふり続けた。
貴「だから、…一度も振り返らずに」
貴「行ってしまったんでしょ?」
貴「…笑って。行ってしまったんでしょ?」
思い返しても思い出せないAの後姿。
言い訳すらも出なかった。
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作者名:み子。 | 作成日時:2017年1月23日 17時