stage2 ページ2
「…白蘭様、失礼いたします」
「うん、どうしたのー？」
豪勢な執務室の真ん中で、座り心地の良さそうな椅子に腰かけ、大昔に流行ったというゲームを半ば真剣に打ち込んでいると執務室のドアにコンコン…と遠慮がちな音が響く
その方向には一切目をくれずゲームする手を止めないまま口だけ動かして返事をするとミルフィオーレの制服を纏った部下がドアの音よりもさらに遠慮がちな声で戸を開けた
「(君がそんなに怯えるほど、僕は君に何かしたことないのになぁ)」
ゲームを継続しながらちらっと横眼でそちらを向く、すると彼は自信なさげな表情で、それは曲がった背筋にもよく表れている、伏目がちでどこを見ていいか分からないといったような緊張感からか、額にはよく見れば冷や汗が浮いている
その手には、紙束が纏められたいくつかの資料を持っていた
「それ、実験の資料？」
「は、はい！そうです！」
「そこに置いといてくれるかい？」
「かっ、かしこまりました！」
彼は僕のいるデスクへ足早やに歩いてきて、緊張なのか不安なのか、その手はやけに動きが強張り、少しの勢いをつけてその資料を僕の目の前にバサリと置いた
「…」
その瞬間、手に持つゲームの画面で[GAME OVER]の文字が点滅して、Aボタンを押すと≪セーブして続けるか≫、≪セーブしてやめるか≫の選択肢が次いで浮かび上がる
何度か十字ボタンの上下を行き来するが、また今日何度目かの溜息をついて電源ボタンに手をかけた
ﾌﾞﾂﾝ…と画面が黒に切り替わり画面に反射した自分と目が合って、たぶん何らかの感情はあったろうけどそれが何かも分からずコントローラーをそこらへ放り投げた
「はぁ…」
椅子に背を預け、その反動で漏れた溜息にまだそこにいた部下がビクリと肩を揺らした
首をうしろにぐにゃりと曲げて天を仰ぎ、ふと視線を落とすと彼が持ってきた資料に目が留まった
「…これ、目通しとくね、ありがと」
「…！…はっ、はい！！」
「もう行っていいよ」
「かしこまりました！失礼いたします！」
資料を片手に持ち上げ、彼の方に少し振って見せると彼はやけに驚いた表情をして、上ずった情けない空返事を部屋に響かせ、こちらへ来たときと同様足早やにドアの方へ向かうと大きな音を立てて出ていった
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作者名：あいちか | 作成日時：2020年9月12日 21時
