検索窓
今日:7 hit、昨日:5 hit、合計:66,665 hit

其の肆 客人達の尋ね人 ページ5

──時は数刻遡り、ヨコハマ某所。

其処は赤茶色をした煉瓦造の建築物(ビルヂング)の一階にある懐古趣味(レトロ)な雰囲気を醸し出している喫茶処──喫茶『うずまき』。

其の雰囲気に見合わぬ程ドアベルを派手に鳴らしながら、一人の青年が出て来た。

「どうした敦。浮かない顔だな」

店の外で待っていた長身の男が青年に問う。

青年──中島敦は武装探偵社にて調査員として働いている異能力者である。
未だ入社して一年にも満たないが、持ち前の『異能力』と正義感により、多くの手柄を挙げていた。

しかし、人が良すぎる所と、ヘタレな性格が玉に瑕である。
其の性格が故に、先程迄見知らぬ客の相談に乗っていたのだが。

「其れが…」

敦は先程起きた話を、少し前を歩く男──国木田独歩に話した。

憔悴し切った顔をした客人達は如何やら兄弟らしく、敦が話を聞いたのは長男であった。

兄弟は人探しに来たのだと云う。ヨコハマをたった三人、助力無しで捜索とは、随分無茶をすると思った。実際に彼等の表情を見ればどれだけの苦労かは想像に難くない。

更にはヨコハマに在住しているかは不明ときた。最早広大な砂漠からたった一粒の砂を見つけ出す様なものである。

其の代わりに、捜している人物の特徴ははっきりしていた。昇降機(エレベーター)に乗り込んでから話を続ける。

性別は女、肩より長い茶髪であり、瞳は紫。女性にしては高い背丈だと云う。

程なくして到着の音が鳴り、昇降機の扉が開く。足を踏み出すと同時に、其れ迄黙っていた国木田が口を開く。

「若しやその尋ね人と云うのは…」

「矢ッ張り国木田さんもそう思いますか!?」

敦が国木田の顔を仰ぐ。

何故敦が客── 一郎の話を聞いた時に黙考していたか。何故ならば、外見特徴に該当する人物を知っていたからである。

若しもの事を考慮し、伝える事は出来なかったが、如何にも当てはまり過ぎていた。

国木田も同じ意見なのだろう。

「然も、その女性──」

其の先の言葉を聞くと、国木田はドアノブに伸ばした手を止めた。目を見開き、思わず敦を見返す。

(まぁ、そうなるよなぁ……)

無理もないと、敦は頷きたくなる衝動を抑えて、国木田を見る。

敦が口にしたのは、其の兄弟の尋ね人である女性が、もう何年も前に生き別れた姉である、と云う事だった。

其の伍 探偵達の談話→←其の参 帰宅



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (26 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
56人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:耐熱ガラス | 作成日時:2020年3月15日 17時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。