其の肆 客人達の尋ね人 ページ5
──時は数刻遡り、ヨコハマ某所。
其処は赤茶色をした煉瓦造の
其の雰囲気に見合わぬ程ドアベルを派手に鳴らしながら、一人の青年が出て来た。
「どうした敦。浮かない顔だな」
店の外で待っていた長身の男が青年に問う。
青年──中島敦は武装探偵社にて調査員として働いている異能力者である。
未だ入社して一年にも満たないが、持ち前の『異能力』と正義感により、多くの手柄を挙げていた。
しかし、人が良すぎる所と、ヘタレな性格が玉に瑕である。
其の性格が故に、先程迄見知らぬ客の相談に乗っていたのだが。
「其れが…」
敦は先程起きた話を、少し前を歩く男──国木田独歩に話した。
憔悴し切った顔をした客人達は如何やら兄弟らしく、敦が話を聞いたのは長男であった。
兄弟は人探しに来たのだと云う。ヨコハマをたった三人、助力無しで捜索とは、随分無茶をすると思った。実際に彼等の表情を見ればどれだけの苦労かは想像に難くない。
更にはヨコハマに在住しているかは不明ときた。最早広大な砂漠からたった一粒の砂を見つけ出す様なものである。
其の代わりに、捜している人物の特徴ははっきりしていた。
性別は女、肩より長い茶髪であり、瞳は紫。女性にしては高い背丈だと云う。
程なくして到着の音が鳴り、昇降機の扉が開く。足を踏み出すと同時に、其れ迄黙っていた国木田が口を開く。
「若しやその尋ね人と云うのは…」
「矢ッ張り国木田さんもそう思いますか!?」
敦が国木田の顔を仰ぐ。
何故敦が客── 一郎の話を聞いた時に黙考していたか。何故ならば、外見特徴に該当する人物を知っていたからである。
若しもの事を考慮し、伝える事は出来なかったが、如何にも当てはまり過ぎていた。
国木田も同じ意見なのだろう。
「然も、その女性──」
其の先の言葉を聞くと、国木田はドアノブに伸ばした手を止めた。目を見開き、思わず敦を見返す。
(まぁ、そうなるよなぁ……)
無理もないと、敦は頷きたくなる衝動を抑えて、国木田を見る。
敦が口にしたのは、其の兄弟の尋ね人である女性が、もう何年も前に生き別れた姉である、と云う事だった。
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作者名:耐熱ガラス | 作成日時:2020年3月15日 17時