其の拾漆 火事の元 ページ18
「……如何して?」
「何が?」
静寂を破ったのは鏡花だった。純粋な瞳に美妙が写る。
「如何して中途半端に記憶を残したの?」
「残っちゃったんだよなぁ」
美妙は事のあらましを鏡花に話した。其れでも未だ、純朴な瞳が美妙を捉えて離さない。
「なら、
「うーん、そうもいかないんだよね」
鏡花は首を傾げ、敦は目線を美妙にやり、次の言葉を待つ。
「彼等は有名人だ。其れがヨコハマ全域と云っても良い程の広域で人を探した。人の噂とは風と同じだ。もう此の話がどれだけ広がっているか判らない」
二人が目を見開く。如何やら気付いたらしい。
もう、三人の記憶を消すだけでは万事解決といかない事を。
「火元を消すのはそう難しくはない。唯、風に飛ばされた火の粉が何処で燃えるか判らない」
美妙が冷めた茶を見つめる。
「消すなら火元だけで無く、火の粉も相手にせねば」
そう云って重々しく溜息を吐く。鏡花は納得した様子だ。
「──なァにが火の粉よ。莫迦莫迦しい」
すぱんとこぎみよい音と共に
女は急須と保温ポットと湯呑みを乗せた盆を勘定台にドンと置くと美妙の横にドカリと座った。
「アンタの不手際が原因なんだから、其のぐらい何とかなさい!そんな事よりも話さなきゃならない事が有るでしょ!」
──異能力『
「話さなきゃ……ッて、若しかして昨日云ってた“中王区”の事
?」
中島敦──異能力『月下獣』
「中王区?」
泉鏡花──異能力『夜叉白雪』
「泉ちゃんは初めて訊いたかな?近いうちに異能集団の
夏目美妙──異能力『胡蝶』
店内は先程迄とは打って変わって剣呑な空気に包まれている。今は異能力者しかいない。古本屋では無く、異能集団としての空気感。異能力者の時間。
「題は“中王区による『対異能力者措置』について”。日時は3月25日、これが会場に“繋がる”招待状」
そう云って美妙は二人に一枚の葉書を差し出した。
「え?でも、此の葉書……」
「……何も書いてない」
裏にも表にも、葉書には何も書かれていなかった。
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作者名:耐熱ガラス | 作成日時:2020年3月15日 17時