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其の壱 捜索 ページ2

その日は季節外れの夏日だった。前日との寒暖差と、遠出の依頼だった為か、いつもより疲労を感じていた。もしかしたら、それらによる幻覚だったのかも知れない。

雑踏の中を歩く女を見た。たった一瞬の事だった。
唯其れだけだったなら何も幻覚を疑う事は無い。

だが、男はその女を知っていた(・・・・・)。何年も前に生き別れ、今や顔も朧げにしか覚えておらず、写真すらも残ってはいないが、彼はその面影を見出した。

女は、確かに、彼が再会を熱望している姉と同じ顔だった。






休日なのも相まってか数多の人が行き交っている。
暫く歩き人の邪魔にならない場所まで来ると、男──山田一郎は二人の弟に向き直った。キャップを被り直した弟、二郎とその横で周りを見渡す弟、三郎の顔には不安が見える。

「いち兄、本当に探すんですか?」

気は確かか、とでも言いたげな表情で三郎が問いかける。

「嗚呼、確かに見たんだ」
「でも、兄ちゃん。ほんとに見つかるのかな。もう何年も会ってないし、俺も三郎も殆ど覚えてないし…」
「そうですよ、いち兄!それに此処、ヨコハマですよ!イケブクロならまだしも、僕達だけで探し出すのは厳しいのでは…」

そこまで言ってはっと口を閉じる。三郎は一郎の事を尊敬していた。それは二郎も同じ事で、己の兄を傷付けてしまったのではと、兄の顔色を伺った。

兄が生き別れた姉を探すのは自分達の為、否、家族の為だという事を理解していた。

一郎も、弟達がそこまで云うのは自分の為だと理解していた。だが、引き下がる事は出来ない。

何としても会って、話さなければ。自分達が今迄何をして来たのか。何をしていたのか、聞かなければ。

兄の顔を見て、決心が付いたのだろう。二人は兄を手伝う事にした。


捜索は難航を極めた。当然と云えば当然のことである。第一、女がヨコハマに住んでいるとは限らなかった。偶々、観光しているのを見ただけの可能性もあるのでは、と三郎が問うたが、それは一郎が否定した。

曰く、スーパーの買い物袋を引っ提げた観光客など居るのか、との事。

一瞬の事だったにも関わらずよく見ている。
だが、ヨコハマに居るとしても、見つかる可能性は低い。

何せ、ヨコハマだ。

昼夜問わず人が行き交い、ビル群だけでなく住宅街も含めると、とても三人で捜索するには無理があった。

其の弍 喫茶店→←出会い編 序幕



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作者名:耐熱ガラス | 作成日時:2020年3月15日 17時

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