25 おツル婆ぁ ページ30
二宮が
必死でみやびを探し回っている時
潤之進は
一軒の小さな茶屋に入っていった。
そこは
葦簀で三方囲まれたスペースに
床几が二つ置かれただけの露天の茶屋。
小さいが
この浅草寺では最古参の茶屋で
手作りの団子がうまい！と評判の店だ。
そこに
笠をかぶったままの潤之進が
「邪魔するよ。」
ぶらり入って行ったのだが
店を一人で切り盛りしているおツル婆ぁには
声だけで
誰だかすぐに分かったようだ。
「潤坊、邪魔するんなら帰りな！」
と
振り向きもせず
しわがれ声で喚き返してきた。
ちょっと気の弱い奴なら
おツル婆ぁのこの一言だけでブルってしまい
泣きそうになるほどのド迫力だが
潤之進は
全然怯むことなく
スタスタ店の奥に進んでいく。
と
ここでようやく顔を上げたおツル婆ぁは
「ちょいと潤坊、お前、勝手になんだ･･い･･」
と言いかけて
あんぐりと口を開け絶句した。
なぜなら
潤之進が気を失っている若い娘を
両手に抱えていたから･･。
大層値の張りそうな大振り袖を着ている所を見ると
こりゃあ
どこぞの大店のお嬢様に違いない。
「ちょっ、お前･･、その子、どうしたんだえ？」
びっくりしすぎて
つっかえつっかえ問うおツル婆ぁに
潤之進は
「奥を借りるよ。」
とだけ言い
客が腰掛ける床几の間をすり抜けて
今にも潰れそうな掘っ立て小屋に向かっていく。
おツル婆ぁは
その後ろ姿を呆然と見送っていたが
はた！と我に返り
串団子にかじりついてる客に向かって
「あんたたち、今日はもう店じまいだ。とっとと帰んな！」
と怒鳴りつけた。
「ほらほら、ぼやぼやするんじゃないよ！」
と言いながら
客が座っている床几を片付けるべく
凧の骨のように痩せた腕で持ち上げようとするんだから
せっかちだし乱暴きわまりない。
でも
おツル婆ぁが荒っぽいのは
この辺では有名だったので
客の方も
「ひでぇなぁ」と言いつつも笑っている。
「また来るよ。」
とにこやかに言う客に
「今度は女の一人や二人、一緒に連れてきやがれってんだ！
この甲斐性なし！」
って毒づくんだから
本当に口が悪い。
わははっ！
こりゃあ一本取られたな！
とか笑いながら去って行く客を
ふんっと鼻を鳴らして見送ったおツル婆ぁは
大急ぎで
潤之進の後を追いかけてった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 315人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「嵐」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：はっしー
作成日時：2018年5月16日 0時
