花笑みのきみ (ページ27)

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22　厄介なことページ27

かぶっていた笠をとり
着物が汚れるのも厭わず
地面に膝をついた潤之進は
一瞬言葉を失い

ごくり･･･

と生唾を飲み込んだ。

なぜなら

潤之進の目の前少女が
あまりにも綺麗だったから。

涙をいっぱいにためた大きな黒い瞳は
キラキラと宝石のように輝き
引き込まれそうだったし

肩をふるわせている少女の頬は
血の気が引いて青白いが
形のいい唇は真っ赤で
思わず触れてみたくなるほど･･
いや、もっと有り体に言うと
その柔らかそうな唇に吸い付きたくなるほどだったから。

「･･き、気分が、悪いのか？」

今まで数え切れないほどの舞台を踏んできた潤之進だったが
こんなに声が上ずったことは
ここ最近なかった。

声がひっくり返りそうになるのを堪えながら尋ねると
少女は
薄く唇を開いて
何か言いかけた。

が
声にならない。

苦しそうに少し眉をしかめて
目をつぶると
ぽろりと涙がこぼれ落ちる。

すると
それを合図に
少女は
糸が切れた操り人形のように
カクン、と前のめりに崩れ落ちてしまった。

「あっ！」

潤之進が思わず手を差し伸べその細い体を抱き留めると

ふわり･･

少女の体から立ちのぼる甘い香りが
潤之進の鼻先をかすめた。

完全に気を失い
体重のすべてを潤之進の腕に預けきっているのだが
まるで羽か何かのように
重みをほとんど感じない。

浅くて速い息が
少女の薄い胸をわずかに上下させ
細い腕は
力なくだらりと下がっている。

「おいっ！大丈夫かっ？！」

軽く揺すってみるが
少女は
見知らぬ男の目の前に
その身を無防備に投げ出したまま気を失っている。

潤之進は
内心
厄介なことに巻き込まれた･･
と、小さく舌打ちをした。

こんな所で
いつまでも蹲っている訳にもいかない。
もし誰かに見とがめられて
潤之進だとばれて
大騒ぎにでもなったりしたら大変だ。

かといって
このままこの少女を放ってはおけない。

潤之進は
笠を拾い上げてかぶり直して顔を隠した。
そして
少女を横抱きに抱え直し

「･･よっ」

とかけ声をかけて立ち上がった。

かくん･･

と
少女の白い喉元が
潤之進に差し出されるようにさらされた。

少女は
やはり
目を覚ます気配はない。

無言の潤之進は
笠の影にまぎれ
意を決するかのように小さく一つ頷くと

さっき二宮が水を求めて走って行ったのとは
全然逆の方向に
少女を抱いたまま歩き出し
人ごみに紛れて見えなくなった･･。