20 当代きっての人気役者 ページ25
この緊急事態に
どうにもこうにも困り果てた二宮は
ひとまず
参道脇の木立の下に身を寄せ
大きな石灯篭にみやびを腰掛けさせた。
そして
「みやび？ちょっとここで待ってておくれ。
手拭いでも濡らしてくるからね。」
みやびの薄い肩に手を置いて
動くんじゃないよ？
と念を押した。
血の気が引いた青白い顔色で
目をつぶったまま
小さくコクンと頷くみやび･･。
その姿は
消えてしまいそうなくらい儚げ･･。
今すぐ
みやびを抱え上げて連れて帰ってやりたい！
と思うのだが
いくらみやびが華奢でも
作家先生の二宮は
筆より重いものは持たない、いや持てない。
「こんなことなら、大野屋も連れてきたら良かった。」
そしたら
智三郎に駕籠かきを呼びに走らせるのに･･
と
悔しそうに呟いたが
後悔先に立たず。
とにかく今は
手拭いを冷たい水で濡らして
のぼせてしまったみやびをさっぱりさせてやりたい！
その一心で二宮は
「はい、ちょっとすみませんね。通してくださいよ。」
と
水を求めて
人混みの中に飛び込んでいき
すぐに人波に紛れて見えなくなってしまった。
葉影が揺れる木立の下
綺麗な振り袖につっぷすようにして
うずくまっているみやび･･。
目をつぶっていても
頭を下にして
グルグルまわって落ちていくような感じ･･。
みやびは
ぎゅうっとキツく目をつぶった。
涙がじわりとにじんでくるのが分かる。
胸苦しくて呼吸が浅くなる。
息をしたいのに
上手く息が吸えない。
「･･お父、･･さ･･ま･･」
苦しくて
苦しくて
思わず智三郎を呼んでしまうが
当然
智三郎はここにいないのだから何の返事もない。
･･はずなのだが
「･･どうしたんだい？大丈夫か？」
と
低く柔らかな声が聞こえてきた。
うすれゆく意識の中
みやびが伏せていた顔をゆるり上げると
かぶっていた編み笠をとりながら
ゆっくり跪く男の姿が目に飛び込んできた。
涙で視界がにじんで顔はよく見えないが
男の顔がはっきり見えたとしても
世間知らずの箱入り娘のみやびには
目の前にいる人が誰なのか全然分からなかっただろう。
しかし
そこらの道行く娘さんやお母さま方に
「この人、だ〜れだ？」
って軽〜い気持ちで聞いたら大騒ぎになること間違いない！
なぜなら
みやびに声をかけてきたのは
人気、実力ともにナンバー１
今を時めく超〜人気歌舞伎役者、松本潤之進なのだから！
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作者名：はっしー
作成日時：2018年5月16日 0時
