14 冷たい言葉 ページ19
「もう！話が進まないから主さんは黙らっしゃい！」
ギロリ！
智三郎を睨みつけた後
高尾は
目を転じて二宮を睨みつけた。
「あの子を女の子として育てることを思いついたのだって
あの子のことをネタにして
いつか話に書くためなんでしょ？」
二宮に食ってかかった。
二宮は
人差し指と親指でわっかを作って
銭をしめす仕草をし
ゆらゆらと揺らしてみせる。
そして
「ええ、ええ、書きますよ。
金になりますからね。
私だって作家の端くれ。
こんな面白いことそうそうないですもん。」
それが何か？
と、しれっと言う。
「面白いって･･。」
二宮のその一言は
高尾の逆鱗に触れた。
「わっちやぁ、それが気に入らない！」
びしっと二宮を指さす高尾。
「先生は
面白ければ何をしてもいいって思ってらっしゃる。
でも
その考えは間違いでござりんす！」
「ほう、間違い？」
「人が人の一生をもてあそんでいい訳はありません！」
「じゃあ聞きますが、あの子を引き取らず見捨てれば良かったと？」
「そんなことは言ってはおりません！」
高尾と二宮は互いに譲らず
二人の話は
どこまでいっても平行線。
二宮は、ふうっと息をついて
「はいはい、高尾太夫のご高説ごもっともでございます。」
と話を切り上げにかかった。
「でもね、これだけは言っておくよ。
私はね
金になるなら
なんでも書くわけじゃあない。
書く価値があると思ったことなら書くけど
お前みたいなつまらない女のことは
一文字たりとも書くつもりはないからね。
だから
どうぞご安心ください。」
二宮が
ひやりとする冷たい眼差しでそっけなくそう言った途端
高尾の顔色がサッと変わったことに
智三郎は気がついた。
怒りに燃えていた切れ長の瞳に
悲しそうな色がうかんだ。
形のいい赤い唇が
引きつれるように歪んだ。
あでやかだった花びらが
ハラハラと散っていくように項垂れていく高尾。
同じうつむくのでも
さっき
自分に見せた仕草とは明らかに違う･･。
あれ･･、泣いてる？
と
顔をのぞき込もうとしたが
高尾は
豪奢な着物の長い裾をしゅっと引いて
智三郎に背を向けた。
そして
八代目は
俯いたまま顔を上げず
「主さん、みやびに伝えておくんなさい。
わっちは、夜見世の準備があるので
もう廓の方へ戻ったと･･。」
そう言うと
シュッと衣擦れの音だけ残して
襖の向こうへ消えていった。
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作者名：はっしー
作成日時：2018年5月16日 0時
