12 衝撃 ページ17
声をひそめてはいるが
八代目の言葉の一音一音が
突き刺さるように鋭く智三郎に耳に食い込んでくる。
「引き取り先の家の商売が妓楼だから
女の子として育てるって
そんなふざけた話があるかい？
世間じゃ、そんな理屈は通らないよ！」
ぴしゃっと言われて
智三郎は
思わず後ろにのけ反ってしまったが
ここで降参するのもしゃくなので
無謀とは知りながら反撃してみる。
「･･で、でも
お前だって最初はさ
可愛い可愛いって楽しそうだったじゃん？」
智三郎がもにょもにょ反論を口にしたが
「それは
どっからどう見ても
何をしても
あの子は可愛いんだから仕方ないじゃない。」
八代目は
ツンっとそっぽ向いてとりつくしまもない。
「それに
わっちが禿だった時に
世話になったあの七代目の血を受け継いでるんだよ？
そんな子に『姉さま姉さま』って慕われてご覧？
骨抜きにもなるよ！」
きっぱり言い切った後
八代目は
すっと表情を曇らせた。
「でもね、いくら可愛くても
あの子ももう１４。
これから声も変わってくるだろうし、髭だって･･」
ってそこまで言うと
八代目は
目をつぶってブルブル頭をふった。
「考えたくない！
あの可愛い子に髭が生えるなんて！」
八代目の心の叫びに
つい
智三郎も想像した。
もじゃもじゃ髭面になったみやびを･･。
「‥‥似合わねえな。」
ぽつりとつぶやく智三郎に
「だろう？！」
八代目は
真剣そのものの表情で
智三郎をビシッと指さした。
「ある朝、目が覚めると
自分の口の周りに針みたいな髭が生えてくるんだよ？」
八代目に言われて
智三郎は
あらためて自分の顎をなでた。
今日はまだ剃刀をあててない顎から
じょり‥と微かな音をたてて
指先にまばらな髭が引っかかる。
「主さんはそれでいいんだよ。
髭が生えてたって。
男なんだから。
でもね、女の身と思い込んでるみやびに
突然髭が生えてきたら
あの子、どれだけ驚くか考えたことある？」
八代目に
鼻息も荒く詰め寄られた智三郎は
何も言い返せない。
「みやびは
本当は男の子なのに
心は･･
心は
そこらの小娘どもよりずーっと純粋に女の子なんだよ！
あんたたちに騙されてたせいでね！」
この
『騙されてた』という一言に
智三郎は
ガツンと金づちで頭をぶん殴られたような衝撃を覚えた。
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作者名：はっしー
作成日時：2018年5月16日 0時
