10 どうぞよろしく ページ15
「よく見たらこの子
綺麗な顔立ちしてると思いませんか？」
「この子が生まれながらにして持っている
『美しい』という徳を
このまま埋もれさせちゃあいかんでしょう。」
「何と言っても
この世でこの子だけですからね
高尾の血を引くのは。」
「磨けばこの子は
高尾とそっくりになるでしょうよ。
いや、もしかしたら
高尾以上に綺麗な子になるかも。」
二宮は
さっきまでは逃げようとしてたくせに
今は一歩ずつ近づきながら
智三郎を籠絡しようと怒涛の波状口撃を仕掛けてきた。
とにかく
万事が大野屋は
口で二宮に勝てるはずはない。
最後の最後
鼻先がくっつくほどの超至近距離まで詰めてきて
二宮が放った極めつけの一言はこれ･･。
「どうです？
あなたと私で
この子を
高尾以上の太夫に育ててみませんか？」
真面目そのものの二宮に気圧されて
思わず智三郎は、コクンと頷いてしまった。
にんまり笑った二宮。
「決まり！
今日からこの子は大野屋さんの子だ。」
そう言いながら
色白の二宮の顔色が
うっすら桃色に染まっている。
よっぽど興奮している証拠だ。
それだけではない。
「ああ、楽しみだ。
私ゃ、この世にもう面白いものはないと思っていたけれど
よもやこんな楽しみなことがあろうとはねぇ･･。」
いつもは
無感動、無表情のくせに
今は
白い歯を見せてニコニコ笑っている。
「いやぁ、これは最高の道楽だよ、大野屋さん！」
鳶色の瞳をキラキラさせて
俄然やる気満々の二宮は
「この子の名前はどうしようか･･？
高尾はこの子に『雅紀』って名前をつけてたみたいだから
そうだな･･
雅紀の雅の一字を使って
『みやび』ってのはどうだい？」
勝手に
この子の名前まで決めてしまった。
「うん、いいね！
みやび、みやび太夫！」
ひとり何度も頷きながら
くふくふ･･と楽しげに笑う二宮とは対照的に
これからのことを考えて
智三郎は
暗澹たる思いだったが
自分の腕の中で
泣きつかれて
すやすや眠ってしまったこの子を見ると
胸の奥の方があったかくなってくるのを感じた。
ついぞ感じたことがないこの感じ･･。
これが
父性というものなのだろうか？
涙の粒が光る長い睫毛
柔らかそうな丸い頬
小さいが形の良い赤い唇
どれを取ってみても
この子は
かつての高尾を思い出させる。
「････みやび･･。」
智三郎は
幼子の顔を見ながら
ぽつり、つぶやいた･･。
「みやび、これからよろしくな。」
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作者名：はっしー
作成日時：2018年5月16日 0時
