とある工業高校のおはなし ６（業務連絡♪）

26　総毛立つ ページ26

怒鳴り散らすおじさんに
小笠先生の
いかにも人の良さそうな声が
根気よくかけられる。


「いや‥、櫻井さん
翔くんが
アメリカに行ってしまったら
もう、しばらくは会えませんよ。
どうですか？
あとほんの少しだけ
息子さんのご家族も、一緒に過ごされては‥？」


そんな小笠先生の提案に
おじさんは
嘲るように言った。


「はあっ？
先生、無茶言わんでください。
息子夫婦には
子どもが２人おるんですよ。
下の子は
ついこないだ生まれたばっかりの赤ん坊です。
なんで
ワシの実の子や孫に
我慢させなアカンのですか？」




ここで
おじさんは大きく息を吸って
こう付け加えた。


「翔みたいな
親からも見捨てられた奴のために‥っ！」









その瞬間



俺の目は
何も見えなくなった。





全身が
ザワザワ‥っと
総毛立つのが分かった。









今、なんつった？





このおっさん


なんつった‥？





『親ｶﾗﾓ 見捨ﾃ ﾗﾚﾀ、奴‥』



って言った‥？









何も見えなくなった闇の中

俺の目の前に

ぼおっと
青白い虚ろな顔が浮かんで見えた‥。





その顔は

人形のように綺麗だけど

喜びも

悲しみも

怒りですら

なくしてしまった‥


いいや

何もかもを
諦めてしまったかのような‥


翔の顔‥。






暗い‥、目。




泣きたいのに

涙も涸れ果てたかのような‥




光もすべて飲み込んでしまうような‥





真っ暗な‥、翔の瞳が



闇の中から

俺を

じいっと見ていた‥。









・


バァン！！









生徒指導室の扉を
蹴破るように開けると
そのままの勢いで、俺は部屋の中に飛び込んだ。





部屋に入ってすぐに
俺の目に飛び込んできたのは

「だっ、誰だ！」

ソファの肘かけ部分にしがみつくように
身をすくませた翔のおじさんの姿だった。





「‥この、 ‥野郎‥ぉっ！」





俺は
手に持っていたパイプ椅子を大きく振り上げて
ブンッと
勢いよくパイプ椅子を
壁に叩きつけた。






ガシャーー‥ンッッ ！！





「ひぃ‥いっ！」





翔のおじさんが
ソファに座ったままで
頭を抱えて丸くなった。





もはや
椅子の形態をとどめていたなかったそのパイプ椅子は
壁に叩きつけられた衝撃で
原型をとどめないほどに
バラバラと飛び散った。



頭髪の薄くなった頭を抱えて
ひいひい、と
ソファの上で悲鳴を上げるおっさんに向かって
俺は
腹の底から叫んでいた。





「て‥めぇっ、ぶっ殺してやるっ！！」 ‥と。

27　かなり、まずいーーっ！→←25　家事都合

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す