夜天 −やてん− ページ25
side 樹
一緒に暮らすことになって、俺は住んでいたアパートを引き払った。
北斗と、奥さんと大我が、お腹の子を待った家。
靴箱を開けば女性物の靴が入っているし、キッチンには花柄のエプロン。
押し入れの奥にはベビー用品が置いてあるし、
何より寝室も、俺が知らないあの頃のまま。
だけど北斗も俺も、この家を手放す選択肢はなかった。
玄関を開けると、
大我の「あ！！」という大きな声が聞こえて。
「ハハッ！大我〜？こっちまでおいで」
靴を脱ぎながらそう言うと、リビングの奥からやってきた大我。
小さな体には、まだまだ大きな車椅子。
一生懸命漕ぎ漕ぎして、お出迎えしてくれた。
「じゅりー！おかぇり！」
「ただいま〜大我。
まだ起きてるのー？もう寝る時間じゃんか」
「だってパパ、だっこしてくれない！」
「そうなの？」
車いすを回れ右させて、廊下を押して進む。
北斗はリビングにいて、ぼーっと考え事をしてるみたいだった。
「北斗、ただいま」
「……ぁぁっ、樹っ、おかえり」
そう言って北斗は、左手を触っていたのをやめた。
…薬指。
北斗と奥さんを繋ぐ、証となる指輪。
「…もうこんな時間……、大我、寝ないとね」
大我はお利口さんにこくんと頷いて、
北斗に向かって両手を広げた。
「ぱぁぱ、だーっこ」
「うん、だっこ。体浮くよ」
ひょいっと持ち上げられた大我の体。
小さな足はぷらんぷらんと揺れて、北斗はそれを大事そうに抱えた。
「お布団いくよ」
「じゅり、おやすみっ」
「ん！おやすみ〜大我」
俺は、北斗が作っておいてくれた夕飯を温める。
いただきますと手を合わせた頃、大我を寝かしつけた北斗が寝室から戻ってきた。
「仕事お疲れさま。…さっき、ごめん」
目の前に座った北斗は、そう言って謝った。
「ん？何が。」
「……分かってる。外さなきゃって」
左手の薬指を、北斗はまた撫でながら言う。
俺だって分かってる。
外すなんてこと、今の彼にはできないって。
「…んぉ、このカボチャんーまっ！」
「樹、」
北斗の心は、いつ崩れてもおかしくないって
そばにいればすぐに分かることだった。
何よりも北斗には、少しでも楽になって欲しいから
大事な大事なそれを、取り上げるなんて出来るわけない。
「いいよ、俺は。気にしないよ」
「でもっ…、」
「大切な奥さんとの物だから。
身につけておいてあげて？」
そう言って、お茶碗に盛られた白米を勢いよくかき込んだ。
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あーちゃん(プロフ) - ただの阿部担さん» 代表して私から返信させていただきます！！最後までご愛読いただきありがとうございました(^^*)永く愛していただけると嬉しいです！ありがとうございました！ (2021年5月14日 21時) (
レス) id: 12865d1db9 (このIDを非表示/違反報告)
ただの阿部担(プロフ) - 完結おめでとうございます！更新通知が届くたび跳び跳ねて喜ぶほど楽しみに読んでいました。完結されるのはとても寂しいですが、また読みに来ようと思います。最後に、こんな神作品を書いてくださりありがとうございました！ (2021年5月14日 18時) (レス) id: 341728400e (このIDを非表示/違反報告)
晴(プロフ) - まりもさん» コメントありがとうございます！ほぼ毎日更新ですので、ぜひ完結までお付き合いよろしくお願いします(^^) (2021年5月5日 20時) (レス) id: 924db004c7 (このIDを非表示/違反報告)
まりも(プロフ) - 早く続きが読みたい〜 (2021年5月5日 20時) (レス) id: 70b03b37e6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：晴とあーちゃん
x他1人 | 作成日時：2021年4月24日 1時
