愛することすら、許されない【爆豪勝己】 (ページ38)

今日:1 hit、昨日:7 hit、合計:137,869 hit

☆★ ページ38

.

　Ｉ・エキスポに展示予定のサポートアイテムの最終調整が完了し、現在は審査待ちの状態。手が空いた私は新たなベイビーの発明に取り掛かった。

　Aも同じ考えなのか、見慣れないスーツケースをを作業台に乗せていた。

「明、ちょっとこのあたりのスペース借りますね」
「はいはいどうぞ」

　了承の返事をするとケースの留め具を外す音が聞こえた。

「うー……ん、思ったより砲口部分が傷んでますわね」

　Aの独り言に何のことだろうと作業台を盗み見ると、そこにあったのはダイナマイトの籠手だった。ヒーロー活動をするにあたって身につけるコスチュームの一部。ダイナマイトのトレードマークとも言える手榴弾を模してデザインされたそれは、敵の攻撃にもビクともしないほど頑丈らしい。

　Aは慣れた手つきで丁寧に解体していく。

「これは……ああ、随分とすり減って……留め具も限界ですわね。もう、こんなになるまで酷使するなんて……、さて！」

　困ったような独り言だが、その表情はとても嬉しそうでやる気に満ちていた。

☆★

「ふ～んふ～ふふ～ん、ふ～んふ～んふ～ん」

　いじっていたベイビーから集中を解くと、軽快な鼻歌が聞こえてきた。Aのものだ。

「Aは本当に爆豪勝己(・・・・)が好きなんですね」
「はい！……って、ち、違いますっ。私(わたくし)が好きなのはダイナマイトで……っ」
「すんごい良い返事をしてましたけど」
「それは、その……っ、聞き間違えただけで……も、もう！明のせいで創造していた部品が変な形になったじゃないですか！」

　他の作業をしながらでも個性でホイホイと部品を量産できるくせに。形が崩れるほど動揺したらしい。慌てて創造を中止して、いびつな形状の金属を拾い集めていた。

「ダイナマイトが好きってことは、爆豪勝己が好きだというのとイコールだと思いますけど」
「違いますわ」

　Aは感情を失くした声で私の言葉を否定した。拾い集めた部品をゴミ箱の中に落とす。底に当たる冷たい音が、会話の途切れた部屋にやけに響いた。

　この議論は意味をなさない。いくら私が正しいことを言っていたとしても、彼女は認めないのだ。私が思っていた以上にAは頑固だった。

「……そうですか」

　私はそれ以上は言いませんでした。いえ、言えませんでした。Aの表情がいつになく辛そうだったから。

.