★★「なんで俺はいつも」 ページ43
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気づくと俺は、冷たい缶の表面で冷えきった手をAに伸ばしていた。細い腕を掴んで自分の方へと引き寄せる。
「あの、爆豪さん？」
視界いっぱいにAの驚いた顔が広がる。濃い灰色の瞳がまっすぐに俺を見ていた。
「お前は何も思わないのか」
「え？」
「気持ちを無視されて、それを強いられて。お前は──」
「ちょっと待ってください。強いられるなんて！これは
「は、」
Aが望んだ……？俺の顔が目の前にあるのにもかかわらず、動揺することもなく強く言い切ったAに俺は奥歯を噛み締める。
「高等部に入る前に私の気持ちは決まっていました。お父様を説得して、ようやくそれが叶いそうなんです」
婚約なんて嫌だと言えば、俺はどんな手を使ってでも阻止してやる。そう思っているのに、Aの口から出る言葉は俺の期待とは違うものばかり。
「簡単には会えなくなりますけれど、せめて卒業まではこうやって」
「──、ふざけんなっ！！」
「えっ？……っ、んっ！」
手に持っていた缶を力の限り握りつぶして放り捨てた。それに気を取られて視線を逸らすAの後頭部に素早く手を回し、無理矢理唇を重ね合わせた。
「────……、んっ、ふ、……ん──」
角度を変えるたびにAの口から声が漏れる。どうして抵抗しない？婚約者がいるんだろ？好きなんだろ、ソイツのことが。嫌なら突き飛ばすなり平手打ちでもすればいいのに。
欲望のままに唇を貪っていると、Aが持っていたジュースの缶が地面に落ちた。弱々しい指先が俺のシャツを掴む。薄く目を開ければ、ぎゅっと閉じた目の端から雫がこぼれていった。
「……っ！」
「──はっ、……ばく、ごう……さん？」
「────、悪かった。………………もう会わねぇ」
俺は肩で息をしているAに背を向けて走り出した。背中越しに俺を呼ぶ声が聞こえる。それでも振り向くことなく俺は足を動かし続けた。声が聞こえなくなるまで。
(あー……だっせぇ……)
罪悪感と後悔が全身を駆け巡る。誰かのものになるなら奪ってしまえ。そんな悪魔の甘言に唆されそうになるなんて。そんなこと、Aが望むわけないのに。
「なんで俺はいつも……」
──欲しいものを目の前で失ってしまうのだろう。
まだ感触の残る唇を強く噛んで、一切の感情を振り払った。
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１５★★「やあ、はじめまして爆豪くん」→← ★★「卒業してからのこと……です」
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作者名：瑪瑙
| 作成日時：2018年10月25日 0時
