★★「卒業してからのこと……です」 ページ42
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「お久しぶりですわね」
「……ああ」
感情を抑えながら俺は気のない返事をする。本当はあの男は誰だと問い質したいが、俺にはそんな資格がない。何よりも俺の小心な部分がその答えを拒んだ。
喉が渇いたというAにつき合って、近くの公園の自動販売機でジュースを購入した。大通りはあんなに人が行き交っていたのに、公園には人が見当たらなかった。
ベンチに座りながら二人同時に缶ジュースに口をつけた。
「９月も後半なのにまだまだ暑いですわね」
「ああ」
「爆豪さんは今日はこのあたりに何か用事でも？」
「……まぁ、いろいろと。てめーは？」
「人と会う約束をしてました。もう済みましたわ」
「あっそ」
あの男、か……。Aが約束をしていたという男を思い浮かべ、缶を握る手に力がこもった。
「……」
「……」
ここで会話が途切れる。いつもならペラペラと勝手に話すAも話を広げる様子はなく、代わりに溜息が漏れた。
「……どうした」
その珍しい仕草に俺は問いかけた。Aははっとして顔を上げる。
「あ、いえ、すみません。最近ちょっと悩んでいることがありまして」
「なんだ」
「それは……その」
Aは落ち着きなく両手の中の缶をくるくると回していた。口を開いて何かを発しようとしたところでまた閉じての繰り返し。俺はなくなったコーラ飲むふりをしながら待っていた。
「卒業してからのこと……です」
ようやく口を開いたAは顔を上げて言った。覚悟を決めたような、そんな表情をして。
卒業してから……。それは電話で話していた『婚約』のことだとピンときた。
Aの性格からして、家のことを第一に考えて行動したに違いない。突きつけられる現実に、俺は改めて住む世界が違うと実感した。
「父はまだ早いと反対していましたが、
「知ってる」
「あら？話してましたっけ？」
「……」
俺が勝手に盗み聞きしただけだ。Aは首を傾げていたが何も言わないでいた。どうしてこんなに平然と俺に報告してくるんだ。
俺の気も知らないで。
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作者名：瑪瑙
| 作成日時：2018年10月25日 0時
