★★「試してやる」 ページ24
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女がトイレに行ったほんの数分の出来事だった。部屋に戻るとAの姿はなく、かわりに犯行声明とも言えるこのカードが残されていた。
「──っ、」
俺は弾かれたように部屋を飛び出した。一番初めに頭に思い浮かんだのはあの『大きな箱』。小柄の人間なら難なく収納できるだろう。
狭い廊下を疾走した。焦りで手のひらが湿り気を帯び、熱くなる。はやく、はやくアイツを──……
「はぁ、はぁ……」
ここまでの道中やつらには会ことはなく、吹き抜けのエントランスホールに出た。どこだ。右か、左か、それとも……。下を見ると、例の箱を持った二人組が出口に向かっているところだった。
俺は迷うことなく手すりに乗り上げ、力いっぱい蹴り出した。両手の爆風を利用して空中で回転し、扉の前で着地する。
「──オイ、おっさんども」
「！？」
行く手を阻まれた二人は驚いて足を止めた。着地の体勢からゆらりと立ち上がる俺を見て、ギョッとした顔をしていた。
「──な、君は……」
「そのでっけぇ箱の中身はなんだ」
「は？何を言っているんだ」
「これは我々が作り上げた作品だが？」
俺の質問に男二人は交互に口を開く。
「あっそ……。で？会場じゃなくてどこに持ってく気だ？」
「お、オフィスに持ち帰るんだよ！今回の展示会には間にいそうにないからな！」
「直前になって欠陥が見つかって──」
「あーあー。そんなこたァどうでもいーわ。──見せろ」
俺は熱くなる手のひらを上向きに掲げて、脅しつけるように言う。何を言っているのか分からないという顔が、だんだんと赤くなって眉間に深く皺を刻んでいった。
「できるわけないだろ！！ふざけるなっ！！」
「だろうなぁ……。大事な人質が入ってんだから」
「は？ な、何を……っ」
「勝手な言いがかりはやめろ！！つまみ出すぞっ」
前の男が動揺を見せたのを誤魔化すかのように後ろの男が叫ぶ。警備員を呼べと近くにいたスタッフに強く命じていた。
「……言いがかりかどうか、試してやる」
ポケットから甲高い音が鳴る鈴を取り出した。俺はAがやったように“鈴を唇に押しつけて”から、軽く揺らして鈴を鳴らす。
チリーン──……
いち。
に。
さん。
チリーン──……
「……やっぱりそこにいたか」
数秒遅れて俺が鳴らした音と同じように、箱の中から小さく……──しかし確かに音が聞こえた。
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作者名：瑪瑙
| 作成日時：2018年10月25日 0時
