忘れましょう ページ39
.
この前の保健室でのことなんだが──……
轟の言葉が頭の中で繰り返される。
「すみませんっ！ 私がちゃんと位置を確認をしなかったから！」
「えっ？」
Aは勢いよく頭を下げた。
「忘れましょう！ お互いに！ なかったことにしましょうっ！！」
「は……？」
「ね？ それがいいですっ」
お互いの傷口を広げないためにはこれが一番だと提案する。
轟は面食らったような声をあげて、ぱちぱちと瞬きを繰り返していた。
「私の個性のことも、自分でどうにかしますから！」
「えっ」
「轟君の手を煩わせたりなんかしませんっ」
今思えば、なんて図々しいことをお願いしていたんだろう。
ちょっと優しくされたからって調子に乗った自分が恥ずかしい。
「いや、でも俺はAに……」
「あ、リストバンドのことですね。私よりパワーローダー先生の方が断然良いと思いますよ！」
忙しい時期は終わったので、パワーローダーの手は空いている。
彼の方がAよりも立派なサポートアイテムを用意してくれるだろう。
「だから……あの、私のことはお構いなく！ か、かか、彼女さんとお幸せに……っ！」
「へっ！？」
言いたいことだけ行ってその場から逃げた。
これ以上轟の顔を見ていると泣き出してしまいそうになる。
……いや、すでに瞳に涙はたまっていた。
轟の表情が見えないほどに、視界は滲んでいた。
声も震えていたし、ちゃんと言葉になっていたかどうかも怪しい。
多分、これで彼と会う理由はなくなった。
だから……──
最後はせめて笑顔で……と思っていたのに。
あてもなく廊下を小走りで進む。
涙で視界の悪い中、足に何かを引っ掛けたようで勢いのままに転んでしまった。
「いったぁ……」
思わず手をついた場所にも何かがあったようで、手のひらが痛んだ。
廊下には物がたくさん置かれていて、足の踏み場がかなり少ない。
むしろどうしてここまで転ばずに来れたのかが不思議だ。
「あれ？ Aちゃん、大丈夫？」
「え？ ぁ……熾雪さんっ」
廊下に座り込むAの顔を覗き込んでいたのは、轟の妹の熾雪だった。
「Aちゃんの姿を見て声をかけようかなって思ってたら、転んじゃったからびっくりしたよ〜〜。……Aちゃん？」
「あ」
彼女の顔を見た途端、ぽろっと涙がこぼれた。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 480人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
moeka(プロフ) - こちらの続編と轟兄妹との絡みを希望します。ぜひ検討して下さると嬉しいです。楽しみに待ってます。 (2021年6月28日 22時) (
レス) id: d61ed9781e (このIDを非表示/違反報告)
silver - どっちも好きですが、こっちが好き！ 続編を希望します！ (2020年11月7日 15時) (レス) id: 0515bcf5a2 (このIDを非表示/違反報告)
麗奈(プロフ) - 私はどちらかと言えば癒月ちゃんの話の方が好きです。こちらの続編を希望します！ (2020年3月23日 5時) (レス) id: acabdf4bd5 (このIDを非表示/違反報告)
ヨシ - 爆豪の方も、こちらの話も、好きです！更新頑張ってください！ (2018年12月5日 21時) (レス) id: 26236bbcfc (このIDを非表示/違反報告)
りんごあめ(プロフ) - 私癒月ちゃんの方が好きかもです。 是非続編希望します。この作品が、シリーズの中で一番好きです！ (2018年11月11日 0時) (レス) id: 949b3c86b7 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：瑪瑙
| 作成日時：2018年7月21日 1時
