ヒロイック・シンフォニー【Secret】 (ページ28)

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０７◆「焦凍、天然なところあるから……」ページ28

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硬い皮膚と骨張った指を持つ男らしい手。
その手の甲に口づけが落ちる。

優しくて温かい感触が、手の甲から全身へと広がっていく。
薬で抑えていた鈍い痛みが消え、かわりに謂われのない倦怠感が襲った。

「はい、これで治癒は完了です」

ヒーローの治療を専門とするリカバリーガール──修繕寺癒月は傷が治ったのを確認して言った。

「ありがとう癒月ちゃん。ほら、勝己君もお礼言って」
「……ドーモ」
「もう……」

適当にお礼を言う爆豪にAは呆れた声を出す。
いつものやりとりなので癒月は気にすることなく、仲睦まじい姿をくすくすと笑って見ていた。

「あー……だる」

骨折用のギプスを外してもらった爆豪は、座っていたベッドに仰向けになった。

「体力が戻るまで大人しくしておいてくださいね」
「ごめんね、わざわざ勝己君のマンションまで来てもらって……」
「いえいえ、ちゃーんと出張費を上乗せしてますので」
「なるほど」

リカバリーキスはすぐに傷を癒してくれる代わりに、それ相応の体力を消耗する。
本来なら病院で治療を受け、動けるようになるまで休ませてもらうのだが……、

「あんなとこ１秒もいたくねーわ。つーか家の方が落ち着く」

という爆豪のわがままにより、大きな怪我をした時は出張してもらっている。
帰ってきたところなのに、呼び出してしまって申し訳ない。

「焦凍が会いたがってたよ」
「はい。昨日帰ったって報告したら、夜中にもかかわらず会いにきてくれました」
「夜中って……迷惑じゃない？」
「いえ。私も会いたかったですし」

嬉しそうに笑う癒月にAも顔がほころんだ。
左手の薬指には、美しく輝く石が嵌め込まれている指輪が光っていた。

「来年だよね。結婚式」
「はい。まだ場所と日にち以外、何も決まってないですけど」

エンデヴァーの息子とリカバリーガールの孫。
それはそれは盛大な結婚式になるだろう。

ちなみに２人が婚約者ということは世間には周知の沙汰である。
以前、テレビの生放送に出た焦凍がうっかり口を滑らせて、全国に知れ渡ってしまった。

話題はそれで持ち切りになり、以来、焦凍はテレビ出演ＮＧとなった。

「焦凍、天然なところあるから……」
「ですよねぇ。でもそれがきっかけで婚約できたので……」
「結果オーライ？」
「……はい」

頬を赤らめて指輪に触れる癒月は幸せそうだった。

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