【129】深い息を吐くのは、いたしたあとで ページ29
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A「翔く……、っ……」
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玄関の扉に押さえ付けられた背中は、ひんやりとして冷たい。
だけど、カッカと火照っているのを感じている今は、固いけれど冷たいそれが、気持ちいい。
そのまま。
そのまましばらく、玄関で、靴も履いたまま縺れる様にしてキスに耽っていたけれど。
その内キスだけじゃ足りなくなって。
彼の顔には似合わずゴツゴツした、大きな手のひらが脚を、脇腹を、背中を撫で上げた。
その手が太腿のラインを確かめる様に撫でながら、わたしに膝を曲げて足をあげさせると、踵に指をひっかけて、靴を脱がされると。
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─────その後わたし達は、ただの男と女になった。
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櫻井「帰んの……？」
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ベットに腰かけ、脱いだブラウスを羽織っていると背中に色気を帯びた掠れた声がかけられた。
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A(起きてたのか……)
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起こさない様にしていたつもりだったのに。
わたしは出来るだけ平静を装って、「はい」と返事をする。
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櫻井「今……何時？」
A「四時半です」
櫻井「今日昼からでしょ、もうちょっと寝てからでいいんじゃねぇの？」
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ギシリ、とベットがなく。
わたしの胸も、ミシリと痛む。
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A「人に見つからない内に、帰ります」
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ベットから立ち上がって上から見下ろすと、彼は「つれねぇ(笑)」目を細めていて。
あの唇は、ニンマリと弧を描いていた。
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A「…………お昼に迎えにきます。昼食は……」
櫻井「食わねぇ方がいいパターンね(笑)」
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起き上がろうとする彼に、わたしは「ここで結構です」と言って制すると、出来るだけ音をたてないようにして、部屋を出た。
それから、鍵を閉めて─────車に戻って。
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A「はぁ……」
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運転席に座ると、深く息を吐いた。
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櫻井『A』
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まだ、耳に残っている。
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櫻井『あぁ…すっげ……』
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ほんの少し前まで、あの声に、腕に愛されていたなんて嘘みたいだ。
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A(嘘みたい……？)
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嘘みたい、じゃない。
嘘だ。
嘘に、しなきゃいけない。
あれは、愛しあってシた訳じゃなくて─────そんなんじゃない。
だって。
だってわたしの仕事は、たくさんの笑顔の為に彼をサポートする事。
彼を笑顔にすること。
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彼とマネージャーのわたしが特別な関係であるなんて、そんな事は許されないのだから。
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作者名：１２（とうふ）
| 作成日時：2014年1月31日 5時
