壱ノ伍 ページ6
*
愉悦の笑みを浮かべて言峰は言う。
「まぁ少なくとも鬼ではないな。人を食った覚えもない。それと、諸君が"不思議な力"と呼んでいるものは魔術だ。」
「魔術?」
産屋敷が驚いて少しだけ声のトーンを上げる。
魔術──と言うより、この大正の世では魔法という言葉の方が比較的よく聞く。
言峰は説明する。
「やはり魔法、と言った方がいいだろうか。詳細は異なるが…まぁ、変わらん。
その魔法には幾つかの系統があるのだが、私は傷を癒す治癒魔術以外は見習い程度でね。」
ふっ、と自嘲するように笑う。
「だが治癒魔術だけは何故か師をも超える完成度でな。時たまに、それで信者を助けることがある。」
そこに胡蝶が口を挟む。
「鬼ではないならやはり蝶屋敷に居てくだされば…。」
それで思い出したように言峰は話す。
「ああ、耀哉。君の質問に答えよう。」
「私は神にお仕えする神父だ。にも関わらず"魔術"を扱えてしまう。私の言っている意味が分かるか?
魔術はそれが扱えないものにとっては奇跡を起こしていることと同意なのだよ。私が信仰する宗教では、神に愛された聖人のみが奇跡を起こすことが出来ると考えられている。」
「つまり、"魔"を扱う者は異端者とされる。中世ヨーロッパでは魔女狩りというものも行っていた程だ。
…私は、ただの異端者だ。」
そして、破綻者である。とは言わなかったが。
真っ直ぐに言峰は産屋敷を見つめる。
産屋敷はにこりと笑って、言峰に近寄って言峰の頬を撫でた。
「君は真面目だね。」
産屋敷は続ける。
「君のその力は一体どれだけの命を助けてきたんだい?"魔"を扱わない事だけがその神様にお仕え出来る条件なのかい?…私はそうは思わないな。」
「その力で多くの人を救ってきた君は、もしかしたら聖人なのかもしれないな。私は君が信仰する神様や聖人を知らないけれど、それで人を救ってきたのなら、私は君を聖人だと言うよ。」
そう言って産屋敷はまた言峰の頬をさら、と撫でた。
その言葉を聞いて、言峰の背中に悪寒が走った。
こんなに醜い私が聖人だと?
たかが数人を救っただけで?前世では自分の心底からの願いを体現したものはひとつの街の悲惨な姿だったのに?
何人も、子供を殺したのに?父親を、妻をこの手で殺したかったと思うような男だったのに?
それでも、聖人だと?
ふざけるな。
ただ、ひとつだ。この思想は、宗教は己を律することが出来るただひとつの小さな柱だ。
ふざけるな!!
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本ぶくろ(プロフ) - わ...わぁ...。口が心臓から出てきそうなくらい好きです!陰から応援しますー! (2023年3月29日 0時) (レス) @page6 id: 268b376be6 (このIDを非表示/違反報告)
眞尋(プロフ) - 頑張ってください!応援してます!!高評価、お気に入り登録しときました! (2019年12月27日 18時) (レス) id: d2f316c579 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ひのまる。 | 作成日時:2019年10月27日 11時