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「いいよ。僕が出してあげる」
「いいの? ありがと。後で半分返すね」
「良いってー。その分帰りの運転も頑張るんだよ」
「ひゃー忘れてた!」
帰りの身支度。割とどこも混んでいるレジの一角に並んで、僕はお会計で銀色のチップのついたブラックカードを取り出す。
今まで経済を回す為に仕方なく使っていたお金が彼女の為に使える事で、心なしか僕のカードも一段と黒光りしている気がする。
__付き合ってるの。私達
あの言葉は、生徒達をだます為についた一時の嘘に過ぎない。
それでも僕は、Aがそれを言い放った時、少なからずポーカーフェイスが崩れるくらいには動揺した。
いつだって心は頭より先に物事をつかんでいる。
昔誰かがそんなことを言ったらしいが、まさにその通りだななんて今更ながら思う。
僕はあの瞬間、突然血の巡りが悪くなったようにぐるぐると視界が回り始めた。
代わりというかのように、心臓の動悸は激しく呼吸を始めて、まるで彼女が僕に告白してくれたかのように勘違いした。
あの時確かに彼女は僕の存在を認めた。
仮にでも、僕の事を、恋人だと。
それだけでもう。
「……__悟、悟?」
「ああ、ごめんごめん。ぼーっとしてた」
「珍しいね。何笑ってるの?」
「いーや別に? 思い出し笑い」
いつの間にか僕の持っていたカートは乗ってきた車を通り過ぎていたみたいだ。
僕の珍しいミスにAは首を傾げて「変なの」と笑う。
後部座席まで荷物は詰め込めるが、割と色々日用品を買ったおかげか後ろまで隙間なく収納された。
案外もう慣れた手つきで車のエンジンをつけてみせた彼女は助手席に乗る僕に向かって「何か食べて帰ろっか」と微笑む。
僕はその言葉に二つ返事で頷いて、運転中の彼女の隣で話題のディナーを検索していた。
「__悟、ご馳走様。ありがとう」
「どういたしまして。美味かったねここの店」
「うん。また来ようね」
「…あーうん。また、ね」
彼女の些細な一言でさえ、僕はどきっとする。
僕の事どんな風に思っているんだろう。
僕は仮の恋人なのに、君はまた来ようなんて期待を持たせる。
「疲れたー。僕今日シャワーでいいや」
「そう? そしたら先に入ってー」
「了解」
なんてことない、恋人同士の会話だ。
……唯一の誤りは、僕たちが本当の恋人同士ではないということ。
約束の2週間は、もう明後日に迫っていた。
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花帆 - 両者の視点で本心が読めるのも面白いです♪続き楽しみにしています! (2022年9月28日 2時) (レス) @page28 id: 8832d32b96 (このIDを非表示/違反報告)
おそらまめ(プロフ) - yukinoさん» yukino様、作者の様々な作品に目を通して頂き大変うれしい限りです。yukino様から頂いたコメント、全て拝見しております。いつも励みになるコメント、ありがとうございます! これからもどうぞご支援頂けると幸いです。 (2022年1月20日 5時) (レス) id: bb8d3426f9 (このIDを非表示/違反報告)
yukino(プロフ) - 私呪術廻戦では五条悟が一番好きなんですよ!(知るか) 読んでて,とても面白いです!!!続き気になります!頑張って下さい!! (2022年1月17日 20時) (レス) @page18 id: b465ac1425 (このIDを非表示/違反報告)
おそらまめ(プロフ) - 董香さん» 董香様、コメントありがとうございます!嬉しいお言葉、励みになります!(^^)これからも頑張れます! (2021年5月31日 16時) (レス) id: bb8d3426f9 (このIDを非表示/違反報告)
董香(プロフ) - はじめまして!こんにちは! 読んでてすごくおもしろいです!!!これからも楽しみにしてます (^^) (2021年5月30日 13時) (レス) id: cdc6ebec75 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:おそらまめ | 作成日時:2021年5月29日 15時