11-思考の包囲網 ページ30
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彼を家にあげる日が来るなんて。
看護師とは言えど、まだ若手の手取りでは限界があるマンションに招き入れるのは些か抵抗があった。
きっと教師、なんて数分前に聞いたものだから、尚更。
だけど女の子の感情をよく理解しているだろう彼は、彼にとっては少し小さい来客用のスリッパをまじまじと見ただけであとは私のいう事だけを黙って聞いていた。
「何でも使っていいから。歯ブラシは使い捨てのがあるから、それ使ってね」
「彼氏は泊まりにこねーの?」
「……何で?」
「いや、男の気配が全くないから」
まるで試すような目で、彼は「歯ブラシすら置いてないんだーと思ってさ」と私を見下ろす。
どこまで気付いているんだろう。それとも、もう全部気付いていて、私がどう出るか楽しんでるんじゃないか。
そのやけに透き通って真ん丸な瞳は何もかもお見通しだと叫んでいる気がした。
「__うまー! 自炊最高!」
「五条くんだってできるのに」
「Aの料理だから美味いの」
彼はいつだって、ずるい。たった一言で越えられない一線を踏み外してしまいそうにさせる。
残り物、なんて。背伸びした。今日の朝から早くに起きて入念に調べながら作った味噌汁のくせに。
お風呂上りの彼の頬はいつもより心なしか血色がよくて、女の子みたいにつやつやしていた。
なのにはだけたスウェットから垣間見える太い鎖骨は色気を十全に醸し出させる武器になっていて、気付かれないように目を逸らすのに必死だった。
「五条くんはソファね」
「ちょっと待ってそれは無くない!?」
「だって付き合ってもないのに一緒に寝るのは違うでしょ」
「それはそうだけど、え、A?」
「おやすみ五条くん、また明日」
ぎゃーぎゃー騒ぎながらも、私の寝室に入ってくる様子はなかった。
高校時代から変わらない、紳士的な人。だから人気だった。
一緒に寝る、なんて。そんな暁には、私の心臓が彼に告げてしまう。
あのね。私ずっと。なんて、リズムを刻んでしまう。
「____さとる」
翌朝、彼は長い脚を余らせてソファに横たわっていた。
少し遠くから愛しい3文字を紡ぐ。反応はない。
起こさないようにそうっと近づいて、平素より幾分か幼い寝顔を見つめる。
こうしていると、今まで隠し通していた何もかもが溢れそうになる。
無意識に伸ばしていた手で前髪をかき分けた時、不意にその目は開かれて。
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花帆 - 両者の視点で本心が読めるのも面白いです♪続き楽しみにしています! (2022年9月28日 2時) (レス) @page28 id: 8832d32b96 (このIDを非表示/違反報告)
おそらまめ(プロフ) - yukinoさん» yukino様、作者の様々な作品に目を通して頂き大変うれしい限りです。yukino様から頂いたコメント、全て拝見しております。いつも励みになるコメント、ありがとうございます! これからもどうぞご支援頂けると幸いです。 (2022年1月20日 5時) (レス) id: bb8d3426f9 (このIDを非表示/違反報告)
yukino(プロフ) - 私呪術廻戦では五条悟が一番好きなんですよ!(知るか) 読んでて,とても面白いです!!!続き気になります!頑張って下さい!! (2022年1月17日 20時) (レス) @page18 id: b465ac1425 (このIDを非表示/違反報告)
おそらまめ(プロフ) - 董香さん» 董香様、コメントありがとうございます!嬉しいお言葉、励みになります!(^^)これからも頑張れます! (2021年5月31日 16時) (レス) id: bb8d3426f9 (このIDを非表示/違反報告)
董香(プロフ) - はじめまして!こんにちは! 読んでてすごくおもしろいです!!!これからも楽しみにしてます (^^) (2021年5月30日 13時) (レス) id: cdc6ebec75 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:おそらまめ | 作成日時:2021年5月29日 15時