私を変えてくれたのは5人の先生。RESTART13 (ページ8)

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＃６３３ページ8

智side

廊下の壁にもたれかかってAの話を聞いていた。

…退院はまだまだ遠そうだね。

1歩前に進んだと思えば、後ろからAが抱えていた思いが手を掴む。

結局は同じ場所に留まったままなんだ。

和「…盗み聞き？」

智「ニノこそ。」

和「まあね。一応、担当医なんで。」

それなら中入ればいいのに。

ニノも全然素直じゃない。Aほどではないけどね。

Aは自分の欲望はほとんど出さないで抑え込んでるから。

その欲望は自分を傷つける行為としていつも俺らを驚かせる。

和「死んだら、本当に楽になれるのかな…？」

ポツリと呟いたその声に背中が震える。

その言葉がいじめを受けていた幼い時のニノと重なってしまったんだ。

智「まさか死にたいの？」

和「いや、外来に来る患者さんとかみんな口を揃えて言うじゃないですか。こんな汚い世界にいるくらいなら死んだ方がいい、って。あれって本当なんですかね？」

…まあ答えは人それぞれ。

でも汚い世界なのは本当だし、死んだら何も感じないわけだから楽だとは思う。

自ら死に近づいていくのは怖いけど。

智「少なくとも俺はこんな汚い世界でも生きていたいと思うよ。死んだら釣りも絵も何も出来ないもん。」

こんなくだらない理由でも生きる意味になるのかもしれない。

道は1つでもないし、途中で途切れたりしない。

必ず目的地にはたどり着くのだから。