カイブツ ページ45
体が、風船のように軽い。
俺の中にある何もかもが、とても軽く感じる。
それが嬉しい。
身軽だ。どこへだって行ける。
誰だって救える。
俺の考えは、間違いじゃない。
そうだ。勇者なんだから。
何をしたって、間違ってるはずない。
〈Aくん。Aくん！…Aッ！！〉
名前を呼ぶ声が聞こえる。
はやく、行かなくちゃ。
だって勇者なんだから。
呼び声に、そのすぐそばに、行かなくちゃ。
「A！ーーーーーー！」
腕を振って、足を前へ出して。
はやく、全部終わりにしなくちゃ。
苦しいのはだめだ。
悲しいのも、だめだ。
だから。
…じゃあ、どう、すれば。
ちがう。間違って、ない。
大丈夫、大丈夫…。
ただ繰り返すはずが、突然、前へ進まなくなる。
どこかに引っかかったのか。
振り向けば、アンバーの瞳がこちらを覗いていた。
「……しゃお、ろん…さ…」
シャオロンさんからは怒ってるみたいな、チクチクした空気が醸し出されていて。
…それが心配であると気づくことはなくて。
「A…っ！ーー、ーーーー！ーーーー…！」
シャオロンさんは俺を止めるようにナイフを奪い取ってしまう。
「な、んで…っ」
弓も、矢も。
「あの、ちょ、何が…」
〈Aくん、正気ある？わかる？鬱やで、調子どう？今シャオロンとおるんやな？〉
「え？…っと、はい」
よかったとか、もういいんだよとか。
マシュマロのように柔らかいその言葉たちが、ジリジリと燻る焦燥感に溶けていく。
焦げていく。
焦がれていく。
「…俺、はやく行かないと、いけないんです」
行かなきゃいけない場所が、わかんなくって。
「ーー！？」
「俺の武器…返せっ、返してくださいっ！」
その手からナイフを奪い取って、シャオロンさんから距離を取る。
悲しそうなその瞳に、苦しそうな表情に、気づけない。
「ーーーーーー！A！」
「何言われてもわかんねぇって！」
周りは、嫌なくらい静かだ。
何もかもが息を潜めている。
まるで、何かを恐れるように。
…もう、ここの争いは終わったのか？
じゃあ、なんで胸のざわめきは消えない？
なんで、なんで、なんで？
〈Aくん、何でか知らんけど向こうが投了したんや。多分一瞬で溶けてくからやと思うけど……異例なことやけど！終わったんや！だから、もう殺す必要なんてどこにもない。シャオちゃんも、終わったって教えてくれててん〉
土埃が立つ地面に、ナイフが落ちる。
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Lento(プロフ) - 雑食さん» ありがとうございます！勇者の使命を最後まで見届けていただけると幸いです…。 (2021年4月7日 12時) (
レス) id: 109e7882d5 (このIDを非表示/違反報告)
雑食 - すごい泣けてきた。。現実を突きつけてくるみたいで好きです。 (2021年4月7日 1時) (レス) id: 065cb097ab (このIDを非表示/違反報告)
Lento(プロフ) - お餅の中のお餅さん» ありがとうございます！頑張ります！！ (2021年4月5日 9時) (レス) id: 109e7882d5 (このIDを非表示/違反報告)
お餅の中のお餅 - 楽しみだ、頑張ってください。 (2021年4月5日 6時) (レス) id: 9d76c4111a (このIDを非表示/違反報告)
Lento(プロフ) - うおさん» ありがとうございます！今更新止まってますが続きますので！もう暫くお待ちください！ (2021年3月2日 12時) (レス) id: 109e7882d5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：Lento | 作成日時：2020年3月18日 19時
