凛とした弦音(d!サイド) ページ40
※ショッピside
(……どうしよ…)
残党に行く手を阻まれ、木陰に隠れたまま動けない。
手斧は太腿のホルスターに挿してある。
ゾムさんを隠して応戦することも可能だが、目を離した隙に何があるかわからない。
急いでしんぺいさんが待ってるヘリに運ばないといけないのに。
大先生に連絡をして、隙が見れずに焦れていると、不意にカンッと音が鳴った。
驚いて見やれば、そこに立っているのはAさんで。
その場だけが時の狭間に取り残されたような、凛としたその立ち姿は、洗練された美を感じさせる。
音はたくさんあるはずなのに、その弦音だけが耳に飛び込んできた。
──弓なんてただ引けばいい。
だってそうしたら矢は飛んでいくんだから。
そんなことを思っていた自分が、いつの間にか魅せられていた。
青いその瞳が、真っ赤に燃えてるみたいに錯覚する。
決意が、それほどに強い意志が、使命感が、ひしひしと伝わってきた。
…こっそりと敵情を伺えば、一人落ちている。
カンッと二本目の矢が放たれ、また的中する。
その矢一本で、確実に一人落としていた。
寸分の狂いもなく、まるですべてを見通しているかのように。
ただ正しい。それが、なによりの武器なのだろう。
(これは…神って言われるのもわかる気がする……)
「大先生、Aさんが応戦してます。隙みて抜けますね」
〈ええよ。カバーには行ったげてな〉
Aさんが才能ありと太鼓判を押されていたのは、風のうわさで聞いていた。
三、四と、間隔をあけて鳴るその弦音が心地良い。
(あーあ、どうせならその音で踊りたかった)
手斧を抜きたくてウズウズする。
やっぱり、まだまだ暴れ足りないな。
足音を最小限に抑えて、戦闘の横を抜ける。
ゾムさんの無事が確保できたら、すぐに戻ろう。
いつも残党処理はセンパイらに取られちゃうし。
× × ×
※Aside
敵は二人に気づいていない。
矢での牽制が上手くいっているのだろう。
(……俺、大分やばいことやってるな)
人を撃つために弓を引き、それを中てている。
ロボロ師匠が言ってくれた『優しすぎる』の意味も、今では分からなくなってしまった。
優しさなんて、とっくになくなってしまったのだろうか。
大切な人たちを守ろうと、それだけで今、俺は矢を放つ。
…それでいい。
俺がこの射を“使う”のは、これで、この世界で終わりにしよう。
カンッと弦音が響いていた。
人が、また一人遠くへ参る音だ。
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Lento(プロフ) - 雑食さん» ありがとうございます！勇者の使命を最後まで見届けていただけると幸いです…。 (2021年4月7日 12時) (
レス) id: 109e7882d5 (このIDを非表示/違反報告)
雑食 - すごい泣けてきた。。現実を突きつけてくるみたいで好きです。 (2021年4月7日 1時) (レス) id: 065cb097ab (このIDを非表示/違反報告)
Lento(プロフ) - お餅の中のお餅さん» ありがとうございます！頑張ります！！ (2021年4月5日 9時) (レス) id: 109e7882d5 (このIDを非表示/違反報告)
お餅の中のお餅 - 楽しみだ、頑張ってください。 (2021年4月5日 6時) (レス) id: 9d76c4111a (このIDを非表示/違反報告)
Lento(プロフ) - うおさん» ありがとうございます！今更新止まってますが続きますので！もう暫くお待ちください！ (2021年3月2日 12時) (レス) id: 109e7882d5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：Lento | 作成日時：2020年3月18日 19時
