【文スト】空から落ちた薄倖美人３

200個の地球と部屋と静かで ページ31

「Aじゃないですか。歩けたんですね。」


少し嬉しそうにそう云うと、首を絞めていた太宰と背中に爪を食い込ませていた中也をゴミを捨てるような感覚で放り投げる。その様子にAは顔を顰める。
漸く出来た呼吸に太宰と中也は噎びを上げる。そして太宰は残った力で上半身を起こしてAを少し鋭い目付きで見る。


「なんで来た！Aちゃん！！」


動いているというものの、赤い顔を見れば高熱であることは明白で、Aの調子が悪いことなど中也でさえ分かった。
作戦は動いている。敦と芥川、国木田達がAを死に物狂いで探している。無理して谷川の前に現れなくてもよかったというのに。太宰は憤りを隠せずにはいられなかった。
いつもそうだ、Aは一人で行ってしまう。何処か知らない処へ。


「おや、そんな言い方は良くないですよ。Aの登場に無様にも助かったのに。」

「黙って下さい、谷川さん。」


Aが谷川を遮るように強く云う。
そして柔和な笑顔を太宰と中也に向ける。久々に見たAの微笑みだった。


「太宰さん。中也さん。私の為にすみませんでした。この戦いは私が終わらせます。」


Aが強く云う。そして谷川に向き直り、構える。谷川は「へぇ、僕と戦う気ですか？ 」と笑う。


「私こと、知ってるつもりなのでしょう？ 」


Aの言葉に谷川は口角を上げて、Aに突っ込む。握り拳をAの小さな顔に振り落とすものの、Aは呼吸を合わせるようにその腕を捻り、谷川の拳を掴み力を上手く利用して背負投の応用で投げ飛ばす。
だが谷川も投げ飛ばされるだけでなく片手を地面につき、Aを蹴り飛ばそうとする。だがAも飛びそれを避け、逆に顔面に蹴りをくらわせて谷川を今度こそ吹き飛ばした。
谷川を圧倒しているAを見て、中也と太宰は舌を巻いた。連続切りつけ魔を倒した時、強いと思っていたがここまでだとは思っていなかった。太宰が「中也といい勝負になるかもね。」と云う。だが中也は何も言葉を返せない。


「ゲホッ…。」


刹那、Aが口元を抑えて膝をついた。
余りの無駄のない動きに忘れていたが、Aは体調不良で動く事さえ至難だった。
その隙に谷川がAに飛び掛った。もうダメだ、と思った刹那黒い稲妻が谷川の目の前に現れた。それを後方に飛び回避する。敦くんと芥川が到着したのだ。
ありがとうございます、とお礼を云うAに芥川は少し戸惑いながらも安堵し頷いた。

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