現し世は夢 ページ20
所変わって。さんざめく舞台の細く薄暗い通路の中に青白い三浦の顔が浮かんでいた。その口元には余裕からくるのか柔らかな笑みが浮かんでいた。
「私の異能は事実をねじ曲げるもの。
お宅の探偵さんも随分手こずったみたいだけれど…、私にどう対応するつもりかしら。」
「…それが何? こっちには二人居る。
貴女の方が不利な筈。」
三浦の言葉に鏡花が静かにもはっきりと言い返す。その言葉を聞いて三浦は可笑しそうにくすくすと笑った。
「確かに不利なのは事実。だけど不利を有利にするのが私の異能なの。
それにこの戦いに賭ける想いが違うので。」
「…それは、僕達も一緒だ。
お前達の身勝手な遊戯なんかにAさんを巻き込むな。」
谷崎の脳裏に浮かぶのは谷崎の名前を呼び、目を細め微笑む姿。美しく強い横顔。頼りない細い体でそれでも人の為と動くその心。
鏡花の脳裏に浮かぶのは優しく笑い頭を撫でるAの姿。鏡花を呼ぶ心地良い声。優しい手の温もり。
それを護りたいと思うのは自然なもので。A救いたいと思うのは皆同じだった。
「それでも私は戦う。命を懸けて。」
鏡花の夜叉が谷崎の細雪の中に舞う。映し出されたスクリーンの中に鏡花の夜叉は映らないものの、鋭い剣圧が飛び交う。
「無駄ですよ。」
三浦の桃色の唇が揺れる。刹那、三浦を囲む椅子や廊下の絨毯に斬撃が走った。攻撃がねじ曲げられたのだ。
「私に攻撃は当たりません。」
「それでも諦めない。」
鏡花の夜叉と谷崎の細雪が変わらず繰り出されていく。だがそれは三浦に届くことなく辺りを散らしていくだけだった。
「いい加減うっとおしいですね。」
それまでひとつも動かなかった三浦が横に飛び、夜叉の斬撃を避ける。そして三浦が鏡花に手を翳すと鏡花の着物の帯が生きているかのように捻じ曲げられその細い身を縛りつけた。
「鏡花ちゃんっ!」
それに慌てて谷崎が帯を振りほどこうとしたが谷崎の服も生きているように動き、身体を縛り上げられる。二人は身動きが取れなくなってしまった。
「そのまま細い首を折ってしまいましょう。」
着物が鏡花の首を締め付ける。その苦しみに顔を顰めながら、鏡花は死に物狂いで懐に隠していたナイフを三浦に投げた。一直線に飛んでいったそれを三浦は体を捻り横に飛び鮮やかな動きで避けた。
「うふふ。私に、勝とうだなんて思わないことですね。」
卑しく笑った三浦は薄暗い証明の中でぼんやりと浮かぶ幻影のようだった。
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みるく(プロフ) - この小説はすごく美しく綺麗だなと思って、とても気に入っています!!!儚く美しい世界観というかなんというのか、語彙力がないですが、ものすごくいい作品でした!読ませていただきなんども涙を流しました!素晴らしい小説を作って下さりありがとうございますm(*_ _)m (2022年3月13日 9時) (レス) @page45 id: a995b7f6e9 (このIDを非表示/違反報告)
海姫(プロフ) - 焔蘭さん» コメントありがとうございます。タイトルは夢主が文ストの世界に来た時、ビルから飛び降り落ちたので《空から落ちた》と入れて、幸せとは遠い子が人との繋がりで幸せになっていくので《薄倖美人》としています!後は夢主の異能が《空が分裂する》だというのもあります! (2019年1月13日 19時) (レス) id: fe69d25c5e (このIDを非表示/違反報告)
焔蘭 - 初めましてで失礼します!タイトルの意味って何かあるんですか?そしてこれからも頑張ってください! (2019年1月13日 16時) (レス) id: 98975d3783 (このIDを非表示/違反報告)
海姫(プロフ) - 乱歩ルート期待の敦くんの妹さん» コメントありがとうございます!乱歩さん…。乱歩の夢希望ですか? 良かったら書きますので聞きますよ! (2018年5月29日 12時) (レス) id: fe69d25c5e (このIDを非表示/違反報告)
乱歩ルート期待の敦くんの妹 - 乱歩さん乱歩さん乱歩さん(ぶつぶつ (2018年5月29日 0時) (レス) id: 4a14a6da47 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:海姫 | 作成日時:2017年8月6日 0時