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 まだ飽きとらんの。部活の帰り道、侑は心底意外そうに呟いた。呟きと言うには声が大きすぎたが、治は手元の唐揚げ棒に夢中で、銀は紙パックのしたの部分を躍起になって剥がそうとしていたので、どうやら気付いていないようだった。飽きないよ、そう言うんじゃないから。俺がそう言うと侑は興味無さそうにふーん、と鼻を鳴らした。
「底抜けやったらどないするん」
 何でもないような顔をした侑は、息を吐くようにそんな事を言った。彼はどうやら、俺がAちゃんに執着している事が気にくわないらしい。
『そんなわけないじゃん』
 侑の言った事はある意味正しいのかも知れないと思った。侑が侑である事なのか、それともセッターというものの定めか、本質をつく事を時々彼は言う。だけども彼女が底抜けだというのは俺にとっては認め難い事で、期待を込めてそう言うしかなかった。
 あれからほぼ毎日、俺は彼女にメッセージを送っている。彼女とのトーク履歴を見直して、彼女から話を始めた事は無かったことに気がついた。そして彼女の返事はいつも似たり寄ったりのものであったことも。
 彼女へのメッセージは、俺はチューペットが好きだとか、学校の桜がもう葉桜になってしまっとこととか、そう言う他愛無い雑談であったり。あるいは道にいた猫とか、絵具をぶち撒けたような真っ赤な夕焼け空とかの写真であったりした。侑と治の喧嘩を撮った動画を送ったりもした。
 多過ぎても、少な過ぎてもいけない。急に詰め込んでしまったら、きっと彼女の器は壊れてしまう。でもまずは与えなければ、川を流れる水さながら彼女の心には何にも残らないのだ。
 彼女に送るものを考えると、意外とこの街には好ましいものばかりだとわかる。今日は空の写真。前のように目が焼けつくようなオレンジ色の空ではなく、水色と薄紫と白を曖昧に混ぜたような、綿飴のような空の写真だ。暫くして彼女から返信が来た事を知らせる音がなる。
「綺麗だね」
 たった四文字の短い返信だった。だけど、その四文字に顕著に彼女の感情が現れていた。いつも、俺の言葉に同調するだけだったAちゃん。チューペットが好きか聞いた時の返事は「どっちでも無い」、猫の写真を送った時は「猫だね、どうしたの?」だった。底抜けなんかじゃなかった。スマートフォンを丁寧にポケットに入れて、三人に別れを告げる。今日は彼女の家に行こうと思い立った。
 

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作者名:定期テスト攻略ワーク。 | 作成日時:2020年7月24日 16時

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