Le miel. ２【JW 赤×緑】

#40 ページ10

「今日さ、オレンジとチョコのケーキ、食べた」
「へぇ、美味しそうやん」
「めっちゃ美味しかった。まだ試作段階やねんけど、その時点でもうばり美味いねん」

流星は俺に告白したくてケーキをだしにしたんやろか。
それはちょっと悲しいなと思う反面、俺も多分、流星のこと利用して大毅の気持ちを量ろうって邪な気持ちが少なからずあったから。
オレンジの皮もチョコレートも苦い。
それが今日の俺の気持ちを写してるみたいで。皮肉やな。

「ともは作るの手伝わへんの？」
「片づけとかはするけど、俺はプロやないから」
「えぇ、でもともが作るプリンとか美味しいやん」
「それとこれとは別やで」

ふぅん、と納得いってなさそうな相槌が返ってくる。

「じゃあ何で香水の匂いしてるん？」

さっきまでの柔らかい声じゃない。
不機嫌な顔に思わず目を逸らせなくなる。

「こうやって、教えてもらってたのかと思った」

後ろから覆いかぶさる形で、大毅が俺の手首を掴んだ。
壊れ物を扱うみたいな優しい手つきに笑ってしまいそうになる。
ふつう、痕になっちゃうくらいギュって掴むんちゃうの。
何でこんなときまで優しいの。
何で好きを忘れさせてくれないの、

「せめて一緒に暮らしてる今だけは、最後のこの一か月だけは、へたくそな言い訳でともの隣に居たい。誰かに奪われたくないねん」

香水の匂い、全部うちの柔軟剤で上書きされていく。
大毅の言葉が俺の思考を溶かしていく。

「……奪われへんよ。奪われるわけ、ないやろ」

とっくのとうに大毅に奪われて、そのまま返してもらってへんのやから。
喉の奥、つかえた続きをそっと飲み込む。

「とも…」

クルッて向きを直された。
真剣で、どこか熱っぽい大毅の視線。

「なに、？」
「……ううん」

わかる。
何度も見てきた。から、わかる。
大毅のしたいこと、しようとしてること。

この目で見つめられて、目ぇ瞑ってまうのは条件反射みたいなもんやんな。
しゃあないよな。

久しぶりに触れた大毅の体温。
柔らかい唇が俺を侵食していく。

「だい…、」

“未明に発生した台風8号は太平洋沖____”

「……っ、ごめん、何してんねやろ、俺」

気まずそうに言った大毅はテレビの電源を消す。
俺に覆い被さった時、彼の手が触れたのはテレビのリモコン。
日常の音が戻ってきて頭が冷静になる。

「俺こそごめん。お風呂入ってくるわ。先寝てて」

ぎこちなく絡んだ視線が離れていく。
二人の間の熱が消えていく。

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