人気モデルに勝つ方法。〈上〉【黄瀬涼太】

好敵手25 ページ26

帰り道。
今日は明日の準備で部活も無く、勿論特訓も無いわけで、俺はいつもよりはるかに早い電車に乗っていた。
寄り道しようという女の子達をやんわりと断って、走って乗り込みそのまま仕事に向かっている。

…いや、本当はそんなに急がなくてもいいンスけどね。
ただ、そらっちが見えたから追いかけてきただけ。

そのためもあって、俺は空席が多い人の少ない電車に乗り、座るそらっちの隣にさりげなく立つことが出来た。


「いよいよ明日ｯスねー…」

「そうだね…何だか実感わかないや」


はは、と顔をあげたその子は小さく笑っている。


「座らないの？」

「あ、じゃ、座らせてもらうｯス」


小さく深呼吸して腰をかける。
そらっちの隣、普通に座れるようになった。


「涼太、家帰って何するの？勉強…はしないよね、ふふ」

「そらっち馬鹿にしてるっしょ！？今日は真っ直ぐ家帰らないｯスよ」

「え、何かあるの？」


…うわぁ、この流れはまずい。


「仕事ｯス…」
「え、今日は涼太君なの！？」


ほら。ほら見ろ！！！
そらっちキラキラしてるし！？
さっきまでいい感じだったのに俺の馬鹿！！！

…なんて後悔したところで後の祭り。


「あの雑誌ｯスよ、今回それの表紙ｯス、“俺”が」
「ほんと！？“涼太君”表紙かー、今月も買わなくちゃ！」


ほめられているのは俺のはず。
そらっちがキラキラしてる原因も俺のはず。

けど…なんでだろう、すっげー複雑。

いつも降りている駅に近づき段々速度を落とす電車の中でそらっちが荷物の整理をし、立ち上がった。
俺は、スタジオまでまだ二駅あるため、もうちょっと時間がある。


「ねぇ」


…と、そこで声がかかる。
見上げると、ポケットからカラフルな飴玉を取り出し、そっと俺の手の上に乗せてきた。

ちょっと大きめで、キラキラ輝くみぞれ飴。


「これ…」
「すっごく美味しいんだよ、私のオススメ」


ゆっくりと動きを止める電車の中。
そらっちは手の中の飴に負けないくらいキラキラした瞳を細めてにっこり笑った。


「お仕事頑張ってね。雑誌、楽しみにしてるよ、涼太」


“また明日ね”とその子が降りていったところで、扉が閉まり、また走り出す。
そんな、切り替えの早い電車とは違って。

俺は赤く染まる顔を収めるなんて事はもってのほか。
にやける顔を必死で隠すことしか出来なかった。

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