人気モデルに勝つ方法。〈上〉【黄瀬涼太】

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__本気の恋に落ちる事に時間なんて関係無い



どこかでそんな事を聞いた覚えが無くもない。


巷(ちまた)では、一瞬で落ちる恋なんてものもあるとか。

“そんなの、顔で決めてるだけだろう”

そう、心の奥で冷ややかに感じていた。


不特定多数の女の子にモテる俺だから。
10人中10人が振り返る様なイケメンだから。


それはただ単に、一瞬の気の迷いだという事だとよく分かっていたつもりだった。
一目惚れの恋、いや、一瞬で落ちる恋なんてそんなものだろう。


__全く、イケメンも困ったものっスね。


どこかで、女の子は全員自分に夢中なものだと思っていたし。
自分が誘えば百発百中で女の子はついてくる。

何処かにそんな自信があったし、確証済。


...本気でそう思っていたはずだった。



『涼太くん格好いい！』


ほら、また。

女の子の声。
俺があまり嫌いではないのは、やはり職業柄からか。

応援してくれる子に感謝の意を込めて、いつも通りファンサービスのために振り返る。

ここまでは、普通だった。
そう、ここまでは...



「おー、俺ｯスか？あざっす！」


このセリフさえ言えば目前の可愛い女の子は真っ赤に染まるはずだったのに。
女の子は、一瞬だけこっちを見ると、目線を雑誌へ戻すのである。


「へ？俺本物なんスけど？おーい、聞こえてるｯスかー？」


再びこちらを捉えた女の子。
しかし、それは俺の知っている表情では無い。


『あの、ちょっとうるさいです。』

「へ？」


いやいやいや、なんで！？
もう、意味が分からない。

え、さっき“涼太くん恰好いい！”って言ってなかったっけ！？あれ、聞き間違い！！？
つか、何でそんな迷惑そうな顔！？
え、俺のファンｯスよね！！？


意味分からなすぎて、頭の中でツッコミをしまくる。
ちらり、と女の子の方を見ると、すでに雑誌の方に目線を落としていた。


『...あははっ、』


インタビューページでも読んでいたのか...笑っていた。
俺に向けていたのとは正反対の、小さな花が綻ぶような笑顔。


_ぐらり。


何かが小さく波打つ感覚。

少し、熱い。



まるで金縛りのようにその表情から目が離せない


気付いた時にはもう遅い。
それは、完全なる一目惚れ。


本当にその瞬間は一瞬で。




__俺は完全に彼女の虜(とりこ)になっていた。

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