毒味役のひとりごと其の肆【薬屋のひとりごと】 (ページ7)

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155.宦官と妓女ページ7

「…そうだよな、お前はそういう奴だよな」

『なんですかそれ』

「言葉が足りないと言われないか？」

『…よく言われます』

苦笑はだんだんあどけない笑みにかわる。
今度はAが不機嫌にうつむく。そこに、壬氏の手がのびる。

『妓女に触れないで頂けますか？』

「なんで逃げる」

『規則ですから』

言ったところで、壬氏は伸ばした手を戻そうとしない。じっとりとAをにらんでいる。

「少しくらいいいだろ、減るもんじゃないし」

『気力が減ります』

「指先だけだ」

しつこい、そういえばこの男、粘着質である。しかたないと目を瞑り、深く息を吐いた

『指先だけですよ』

唇になにかがおさえつけられる。
まぶたをあけると、壬氏の長い指先に赤い紅がついていた。
Aが呆気にとられているうちに、壬氏は指先を自分のもとに戻す。そして、あろうことか、己の唇にそっとのせたのだ。

『(…こいつ……)』

二本の指をはなすと、ほんのり紅が形良い唇にうつっている。
壬氏は目を細め、さらにあどけない笑みを浮かべる。頬にも紅がうつったように、かすかに桜色をしていた。
Aはふるふると肩を揺らしたが、あまりに幼い笑顔を壬氏が向けるのでなにもいえず、うつむいて目をそらした。

『(…なんだよ、そんな子供っぽい笑顔。うつるじゃないか)』

口をぎざぎざに結んだAの頬は、桜色になっている。頬紅はつけていないはずなのに。
くすくすと笑い声が聞こえると思ったら、周りでみんながこちらを見ていた。
林杏たちがにやにやとこちらを見ている。
あとが怖い。
すこぶる居心地が悪い。

いつのまにやら現れていた高順はやれやれと腕組みをしていた。
一仕事終わりましたといわんばかりだ。

もうなにがなんやら困ったもので、その後のことはよく覚えていない。
ただ、林杏たちの追及が、とてもしつこかったのは覚えている。

*

数日後、都の花街に麗しい貴人が現れる。
やり手婆も目のくらむ金子、それとなぜか虫から生えた奇妙な草を持ったその男は、一人の娘を所望(しょもう)した。

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