毒味役のひとりごと其の肆【薬屋のひとりごと】 (ページ21)

今日:25 hit、昨日:72 hit、合計:48,995 hit

169.物好きページ21

憐憫(れんびん)の目が届いたのか、李白はAを見るなり走ってきた。まさに大型犬である。尻尾の代わりに巾からこぼれた髪が一房左右に揺れている。

「おう、お前、あのときの」

あのときとはきっと簪をくれた時のことだろう。

『ごきげんよう李白さま』

きっとAが解雇になったことは知らないだろう。解雇の話は面倒なので、とりあえず挨拶をしておく。

「最近見ないがどこにいってたんだ？」

『とある御仁(ごじん)の部屋付になりましたので』

「部屋付？誰だ？そんな物好きは」

『ええ、物好きですよね』

大変失礼なことを言ってくれる李白だが、まあ、普通の反応であろう。

『(一体、なにがやりたいんだ、あの男は)』

「そういや、最近、高官が妓女を身請けしたらしいな」

『…あぁ……そのようですね』

きっと壬氏が身請けしたという話だろう。
そういえば、雇用契約が決まり、宮廷に行く際、張り切った小姐に全身を磨き上げられ、とっておきの衣装を着せられ、髪を結いあげられ、化粧をふんだんにほどこされた。到底、新入り下女には見えなかったことだろう。
なぜか、おやじが子牛でも見送る目で見ていたのを覚えている。

宮廷内に妓女が入ることもおかしいが、さらに壬氏が目立つので、いやに注目され居心地が悪かった。すぐに服は着替えたが、それなりの人数に見られた。

『(…にしても)』

仮にも本人が目の前にいるかもしれないのに、この男はまったく気づきもせず喋っている。さすが駄犬である。

『ところで、お取込み中のようでしたが、よろしいのですか？』

「ああ、ちょうど行き詰まってたんだ」