検索窓
今日:32 hit、昨日:72 hit、合計:49,002 hit

168.真面目な蜂蜜 ページ20

本当にありがたい。宦官にしておくには勿体ない人物だ。下女用ともあって、粗末な作りであるがそれでも一枚羽織るのと羽織らないのとでは随分寒さは違う。生成(きな)りの袖に手を通していると、それを壬氏がじっと見ている。いや、見ているというよりにらんでいる。

『(何か気に食わないことでもしたっけ?)』

Aが首を傾げていたが、どうやらにらんでいるのはAではなく高順みたいだ。高順は、視線に気が付いたのか、肩をびくりとさせる。

「……これは、壬氏さまからのものですので。私はただ、渡しただけにすぎませんので」

高順がなぜか身振り手振りを加えながら言った。なぜか言い訳がましく聞こえてくる。

『(勝手なことをするなということかな?)』
 
 高順も大変である。

『そうですか』

Aは、一応壬氏に礼を言うと、反古の入った籠を持ってごみ捨て場へと向かった。



*



宮廷内は、後宮の何倍の広さもあるのに、材料にできる薬草はあまりない。見つけることができたのは、蒲公英(たんぽぽ)(よもぎ)といったどこにでもあるものくらいだ。あと曼珠沙華(まんじゅしゃげ)も見つけた。あの球根を水にさらして食べるのが好きである。ただ、球根には毒があるので毒抜きが上手くできないと、すぐ腹を壊すが。

『こんなもんかな』

冬場であるため見つけにくいこともあるが、それでも期待は薄かろう。こっそり、今度種でも植えておこうと考える。

ごみ捨て場へと歩いてるうちに、見覚えのある影を見つけた。
精悍(せいかん)な顔をした若い武官である。そう李白だ。帯の色から、出世したようである。
傍にいる部下らしき男たちとなにやら話している。

『(簪くれた武官か)』

猫猫曰く休みのたびに緑青館にきては、禿相手に茶を飲んでいるようだ。もちろん、本命がいるようだが、彼女を呼ぶには平民の半年分の年収が必要らしい。
まあそれでも、最高級妓女としてはかなり安いわけだが、その理由は軽いという一点にあげられる。希少価値がついてこその妓女である、つまみ食いが多ければそのぶん価値が下がるのだ。

哀れ天上の蜜の味を知った男は、高嶺の花の顔を(とばり)の隙間からでも垣間見ようと通うのである。
出世したのも、花に近づこうとがんばっていることがうかがえる。まことに真面目な蜜蜂である。

169.物好き→←167.寒い季節



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (138 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
850人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

佐倉(プロフ) - しずくさん» ありがとうございます…!!モチベいただきました!!‬т т (2月23日 22時) (レス) id: b1ac26aba9 (このIDを非表示/違反報告)
しずく(プロフ) - 最近薬屋のひとりごとハマったのでとても更新楽しみですー!頑張ってくださいー!!! (2月19日 4時) (レス) @page17 id: 4b943a174f (このIDを非表示/違反報告)
佐倉(プロフ) - マラカスさん» 教えて下さりありがとうございます。すみません。 (12月21日 18時) (レス) id: b1ac26aba9 (このIDを非表示/違反報告)
マラカス(プロフ) - オリジナル作品ついてます (12月21日 15時) (レス) @page7 id: 66680d8fcb (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:佐倉 | 作成日時:2023年12月21日 7時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。