毒味役のひとりごと其の肆【薬屋のひとりごと】 (ページ17)

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165.水蓮ページ17

『それでは、次の掃除場所に向かいますので』

手桶を持ってAが去っていく中、壬氏の麗しき声は「特殊趣味……」とぽつりと言った。

『(別に悪いことは言ってないはず)』

先ほどの一部始終を壬氏に見られていたとしても、別に自分になんら落ち度はないと、Aは清掃作業に勤しむのだった。

*

「私は水蓮(スイレン)と申します。よろしくね、猫猫にA」

「すまないな水蓮…」

申し訳なさそうに顔をしかめた壬氏に水蓮はニッコリと微笑んでみせる。すべてを包み込んでくれるような優しい笑みだ。

「まあ壬氏さま、私は助かりますよ。官女どころか下女も壬氏さまのところでは長続きしないのですから」

「だが水蓮…」

「私は壬氏さまにお仕えして長いのだけど他に人手がないから困っていたのよ」

『そうなのですか？』

「(…むしろ働きたがる娘が群がってきそうなのに)」

なにやらジトっと壬氏を見つめている猫猫の顔を見ながらAは苦笑いしてみせた。

「この子たちならこれまで遭ってきたようなあれこれの心配はないのでは？ほら、以前箪笥(たんす)に……」

「ああ分かった分かった！！もう言うな！！」

分かりやすく動揺している壬氏にAは首を傾げた。

『どういうことですか？壬氏さま』

「気にするな…では、頼んだぞ水蓮。私が仕事している間、色々教えてやってくれ」

はい。とニッコリ微笑んだ水蓮を見ながら壬氏は小さくため息をついたのであった。

『壬氏さまは外延の仕事もされているのですね』

「あら、知ってるの？」

『いえ、出ていった先が後宮とは逆方向でしたので』

「あら…。そうなのよ。だから一度出られるとなかなか戻らないのよ。まあその方が掃除が捗るんだけど」

少し言いづらそうに話している水蓮に今度は猫猫が問いかけた。

「掃除は下女の仕事では？」

「そうなんだけどねえ。前にいた下女に任せたらちょっとしたことがね………」