毒味役のひとりごと其の肆【薬屋のひとりごと】 (ページ15)

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163.特殊趣味ページ15

『…さて、次は……』

Aの掃除場所は、壬氏の執務室である。広いが豪奢(ごうしゃ)でなく無駄のない造りの部屋だ。家主は忙しい身の上らしく、あまり執務室には戻らない。おかげで猫猫やAには掃除がしやすいのだが、問題があるとすれば……

「あなた何様のつもり？」

気が付けば、見知らぬ官女たちにからまれていた。官女たちはどれもAよりも大きく、中には頭一つ分高いものもいた。

『(…育ちがいいことで)』

Aは思わず背丈とともに胸元にも目をやってしまう。体格からして、異国の血が混じっているのかもしれない。色白で肌も美しいことから、一度生で拝見したいところである。

「なんであなたみたいなのがあの方に雇われているの？」

『(…そんなの私に言われましても…壬氏さま直々に雇われているのが気に食わないのか)』

そこまで考えたらあと、Aはえーと。と口を開いた。
口下手なAはうまく口が回らないことも多い。でも黙っていても、相手の怒りを逆撫でるだけだろうが…

『つまり、あなた方は私に嫉妬しているのですか？』

単刀直入に言った言葉は、彼女たちを怒らせるに十分だった。
ﾊﾟﾝｯと乾いた音が響き渡る。

「嫉妬ですって！？人を馬鹿にしてるの！？」

じんじんと痛む頬を撫でながらAは再度顔をあげた。

『(言葉選びを間違えたな)』

仕方ないので言い訳の一つでもしておこうか、とAは思う。

『まさか私が特別扱いされていると？そんなことあるわけないでしょう。あなた方よりも醜女(しこめ)な女をあのような天女のようなお方がお相手にするはずないではないですか？』

Aがうつむきがちにつむぐ言葉に、怒りに満ちた官女たちがぴくりと頬を痙攣させる。

『あなたがたが思う貴人(きじん)はそんな悪食(あくじき)でしょうか？目の前に鮑(あわび)や猪肉(ししにく)があるというのに、わざわざ肉のそげ落とされた鶏(とり)の骨を食べたいと思いますか？まあ、それならなんて特殊趣味(マニアック)なことでしょうがね』

わざわざ特殊趣味という部分を強調したせいか、その部分に官女たちはさらにびくりと身体を震わせる。