毒味役のひとりごと其の肆【薬屋のひとりごと】 (ページ2)

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150.見逃したものページ2

Aと爺(おやじ)は帰路(きろ)についていた。
日が暮れかけている空を見上げてからAは爺の背中を見つめた。

『(たまたま私が帰っていたから良かったけど、もし爺がいなかったら…いや、いつも雑用で外に出ている禿なら爺がいない時間も知っていた…？爺を連れてくるのが遅かったのも気になる…)』

小さいわりに恐ろしい禿だと、Aは背筋を凍らせた。それだけあの男が恨まれていたということだろう。

*

『爺、さっきのみせて』

そう言ってAは爺から巾着を受け取った。

『(案の定口止め料まで入ってるな)』

口止め料金が入っていることを確認してからAはふう。と腰を下ろした。

「せっかく帰ってきたのに難だったね」

「朝から疲れたでしょう」

微笑むお袋にAは素直にうんと頷く。

『様態は安定してたし、もう大丈夫だろう』

男は今後花街全体で出入り禁止になるだろう。花街はその辺の情報網がしっかりしている。

『(…でもなんだろう？なにかが引っかかる)』

小さな禿にまで恨まれるような男。しかし、話からしてかなりしたたかに思えるのだがそんな男が惚れた腫れたで心中など起こすものだろうか。

『…まさか心中じゃなくて』

ボソッと呟いたAに爺はこら。と振り向いた。

「憶測でものを言っちゃいけないよ」

どこか遠くを見るような目をした爺に少し目を伏せたお袋。この様子、爺はこの事件の真相を知っている。

『(思い出そう。現場にあったなにか。なにか、見逃したもの)』

Aは少しずつ事件を思い返していく。
倒れた男女、硝子の器、散らばった煙草の葉。

─もしこれが最初から水に溶かしたものであったなら…

器が一つ。近くに落ちていた麦藁と種類の違う二色の酒。
そこまで考えてAは目を見開いた。