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この段階で、とても嫌な予感がした。
生徒手帳でも奪われて、身元が既に特定されているのかもしれない。
しかも、スマートフォンが誘拐犯の手元にあるなら、私の個人情報は筒抜けだ。
下手に抵抗して危ない目に遭うのも嫌だったので、私は素直に答える事にした。
「 そうだけど、誰？ 」
すると、声の人物は少し驚いたのか「 俺の声が聞こえるん？ 」と尋ねて来る。
どうやら、試しに私に語り掛けているらしい。
「 聞こえるけど、誰？ 」
「 そうなん、良かった。良かったわ。そうか、良かった。まだ、意識はあるんや。 」
「 で、貴方は誰？私の事を誘拐したの？ 」
そんな風に聞くと、声の主は大笑いした。
「 誘拐？おもろい事、言うやん。そうか、何も覚えてないんか。無理ないな。 」
「 誘拐じゃないなら何？何かの実験？人体実験？ 」
「 ちゃうよ。Aちゃんを、守る為にしてる事。大人しくしてたら、何も悪い事は無いから。 」
「 此処から出るには、どうしたら良いの？ 」
すると、声の主は黙った。長い沈黙。
その後、主は「 どうしたら、ええんやろうな 」と寂しそうに言った。
それが、印象的で、主は別に悪い人間では無いのだと思う。
「 Aちゃんが居るのは、どんな所？ 」
その質問に、全く意味が分からず、今度は私が黙る番。
閉じ込められているのでは、無い？
主も分からない場所に、私はいる？
「 真っ白な部屋。 」
「 近くで水の音はする？ 」
言われてみれば、何処か遠くで水の音がした。
「 行ってみたい？ 」
あくまで、私に選択を委ねる口振り。
行ってみたい？その質問、凄く迷った。
どうやって、行くんだろう。
本能的に考えている事を感じて、「 行ってみたい 」と答える。
主は「 それなら、行ってみて 」と言った。
その瞬間、私の目の前に広がるのは川だった。
綺麗な水が流れていて、心地好い音がする。
遠くから船の様な物が流れて来て、其処にひとりの老人が乗って操作していた。
先程の真っ白な部屋は、何処にもない。
「 船が来た？ 」
「 来た。 」
「 乗ってみる？ 」
また、私に判断を委ねる。
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