笑顔な嘘吐き少女と最凶風紀委員長な雲雀さんの日常。【REBORN】 (ページ28)

今日:3 hit、昨日:2 hit、合計:8,901 hit

５７ｰ３.南国果実とチョコレート店ページ28

まあまあ、チョコレートは素晴らしいものですから。

なんて宗教勧誘の如く強引に連れ去られたAは、大量のチョコレート見本を並べたショーケースにげんなりしていた。これが隣に並ぶのがクロームなど可愛らしい少女であれば、微笑ましく見守っていたのだろうけれど。
生憎隣にいるのはマフィア撲滅を宣言するテロリストで、男で、しかも店員さんから｢彼女さんへの贈り物ですか？｣なんて誤解を受けてもええまあと流してチョコレートに夢中になる奴である。

本気で自分が連れてこられた意味が分からないが、Aはとにかく店の内装を見て時間を潰していた。

骸はとにかく本気で吟味していて、時折差し出される味見をその時だけにこやかに受け取り、後は本当に真剣に眺めている。

｢ほうじ茶……抹茶……ブランデー……｣

吟味している声が低い。怖い。誰かこいつをつまみ出せ。そう願ってもしかし、隣にAがいる効果か真剣に彼女への贈り物を選ぶ彼氏にしか見えていないようで、店員の目は皆穏やかだ。節穴だろうか。

待っていて暇なAはふいに、店員が渡してきた期間限定らしいチョコレートの一粒を、ぱくりと口に含んだ。待たされているAを気遣っただろうその味見を、しかし骸のあの形相が見えている視界では中々口にするのは戸惑われたのだが、いい加減暇が勝ったのだ。
Aはぺろりと舌でチョコレートを包んだ。

すると。

甘苦く固いチョコレートの中にはとろけるようなチョコクリームが入っていて、甘い。そこに追撃するように何処からか柑橘の匂いが鼻腔を抜けて、爽やかな気分にさせられる。

｢美味しい……！｣

あまりの感動にAが言うと、骸がふっと振り向いた。

｢どれです｣
｢え｣
｢それどの商品です｣

なんて迫ってくる骸は悩んでいるうちに彼女が喜んだ商品を見つけて一筋の光に縋っているようだったのかもしれない。店員にとっては。
しかしAは己と相手が恋人でないと知っていたので、これはチョコレートに頓着しないAですら驚かせられる逸品を嗅ぎつけてそれを己も味わいたいと言う欲求に従っているにしか見えなかった。

Aがその商品を指さすと成程とひとつ頷いてそれを購入。

までは良いのだが、その制作者の作品全てひとつずつと言うところには、狂気を感じた。流石マニアと謳われる奴である。

Aもこっそり一箱購入したが、骸は馬鹿にするどころか神妙に何度も頷いていた。怖い。