５７ｰ２.南国果実とチョコレート店 ページ27
まあ確かに、フランとはよく下らない話をする。どんな話だってする。
それは未来から継承されたはずの記憶がチーズでぶっ飛んだ癖に、何故か己を｢ねーさん｣と呼び慕うフランとだからこそ、気の抜けた風に話せるのであって。例え記憶があろうがなかろうが性格はまんまなフランだから、その緩さに駄弁ることが出来るのであって。
決してその相手に、己以上に腹の底の知れない骸なんかを選ぼうだなんて、Aは思いもしなかった。
骸にはそりゃあたまにパイナップルをぶつけて遊んだりもするが、あれは彼の身内がいるからこそ許される暴虐だ。マンツーマンで戯れるつもりなど、Aには一切なかったし、今もない。
しかしこの男が言う台詞は、まるで｢自分もお喋りに参加するべきでは｣みたいなニュアンスすら薫って見える。
いや別に、いらない。そうAは思ったし、言った。
クハッと骸が笑う。
｢貴女の僕に正直なとこは、美徳でしょうか？ 猫、別に被ってもいいんですよ｣
そんなことを言いながら、笑われて不機嫌になり踵を返したAを、骸はその長い脚で悠々とついてきてみせた。
｢猫被るのは結構疲れるし、上機嫌なお前に嫌味は通じないから、やるだけ面倒｣
しかも正直ちょっと、今日Aは気分が悪いのである。
骸には敵わないが身長にしてはすらりとした脚でAは気怠そうに闊歩する。骸は追い越すのも隣に並ぶのもせず、後ろから彼女を追うだけだ。
｢成程。まあ時々猫剥げてますもんね。……で、質問の続きですが｣
｢特に何も買わない｣
｢その紙袋は？｣
｢春用の服｣
それは嗜好品に入らないのですか、との質問に、Aは品が変わるだけでただの補充だ、と言う。まあつまり、古いものの代わりにたまたま色々な方面で悪くない服が選ばれただけの話だ。彼女にとっては、これも必要経費。
ファッションにこだわりのある骸は、少女が身に付けるものに無関心なことに、意外性を感じていた。
｢つまり今のところ心から楽しい買い物はないんですね？｣
｢さあ｣
｢じゃああそこ、寄りましょうか｣
生返事に、骸は彼女の紙袋に指を引っ掛け、引き止めた。
指さす先は、チョコレートショップ。
女子ウケしそうだが、しかしAは知っている。フランとの雑談で、師匠チョコレートマニアなんですよーだなんて話が発展したことにより。
｢……いやお前が行きたいだけじゃん｣
思い切り苦々しそうな顔をすれば、骸はわざとらしく肩を竦めて見せた。
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作者名：鈴鐘草 | 作成日時：2016年10月9日 1時
