５５ｰ１.未来の彼女とその後 ページ21
死屍累々、とはこういうことを言うのだろう。
呻き声すらあげられぬ男達が地面に這いつくばり、虫の息でいた。目立った傷は体にはないが酷く埃まみれの服に、ほとんどの者が頭に一発、打撃を受けて血を流している。
その屍達の奥には一人だけまだ狩られていない男が、惨状にがくがくと震えるばかりで。
こつ、こつ、と革靴が近づく度、ひぃと声が漏れた。
｢随分な取引内容を寄越したじゃないか｣
近づく男が言う。
瞳がゆらりと憤怒で揺らめく。
口許には微笑。しかしその目は笑っていない。
｢君がボスか｣
最後くらいボスらしく立ったらどうだい？
なんてトンファーを構えて威嚇しつつ言った。
トンファーは血に濡れている。彼は獣のように舌舐めずりをした。
食われる、と追い詰められた男は予感して、その瞬間恐怖をバネに大声を上げて銃を構えた。銃声。
しかし。
｢うるさいよ｣
かん、と呆気ない程に炎を纏ったトンファーは弾丸を弾いてしまう。
涙の垂れ流れた男は唖然として銃を構えたままで。震えだけが止まらず小刻みにあった。
一歩踏み出す男。その目は完全に、彼の定義する｢草食動物｣を見下していた。
｢君なんかが彼女を貰おうだなんて、おこがましいにも程がある｣
そこらの幹部の方がよっぽど噛みごたえがあった。このボスは就任して日も浅いと聞くが、それにしたって実戦経験もなさすぎるだろう。
こんなの、もし彼女が嫁入りしたとしても、旨みだけ搾り取った後に見切りをつけた彼女が手を下して終わりだったに違いない。
まあ、どうせ彼女が帰ってくるのがあの小動物の下だとしても、自分はきっと、彼女が他に触れるのを許さないだろう。
男は──雲雀は皮肉に笑った。
｢君にあの首はあげない｣
＊
何者かにより壊滅寸前となったあのファミリーが回復の手助けを交渉条件に変えた、と聞いた綱吉は、思わず立ち上がった。
｢それ、本当！？｣
｢ああ。幹部もボロボロ、ボスは憔悴で酷でぇモンだと｣
にっと笑うリボーンは、よかったじゃねぇかと言う。
｢本当だよぉ〜！ ああ、草凪さんに伝えなくちゃ！｣
なんて言ってボス自ら走りに行くのをリボーンは見送る。
その笑みは、計画通り、とでも言っていそうだ。
元々、女性を大事にするリボーンがあんな提案するはずがない。あれは、雲雀を釣るための餌。守護者招集までして発表したのが、わざとらしいくらいだった。
それを綱吉が知っているのか。
リボーンは、弟子もまだまだだなと首を振った。
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作者名：鈴鐘草 | 作成日時：2016年10月9日 1時
