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ドリンクを受け取った彼女はおれの方に体を向けて乾杯、とグラスを上げてからビールを飲んだ。
彼女を前に胸がバクバクする一方、所作がいちいち綺麗だななどと変に頭が冴えている。
「井口さんは」
「はぃっ！？」
「あ、井口理さんですよね？King Gnuの」
「あ、……はい」
「井口さんは今日お仕事だったんですか？」
「そうです」
「お疲れ様です。どんなお仕事だったんですか？あ、言えなければ…」
「あ、新曲の初合わせでした」
「わ〜。今日どんなお仕事したんですか？の返しが新曲の合わせってなんか不思議〜」
とニコニコお酒を飲む彼女に、おれも不思議な気持ちになった。
まず、おれが井口理だということを知っている。
まあ仮にもメジャーバンドで、仮にもテレビにも出たことがあるわけだから、同年代で知らない人ってあまり出会ったことはない。
ないけど、そうじゃなくて…
顔にまで「？」が書いてあったのか、彼女が慌てて話し出す。
「あっ名乗りもせずごめんなさい、わたしはAAといいます」
「あ、Aさん」
「はい」
「Aさん、おれのこと覚えてますよね？」
「？はい、King Gnuの井口理さん…」
「ああええとそうじゃなくて…」
だめだ、全然うまく話せない上に、会話が最初に戻ってる。
再び彼女に会えたうれしさと、から回る自分になんだか面白くなってふふっと笑ってしまったら、彼女も不思議そうに笑った。
「A、理と会ったことあるの？理ずっとお前のこと探してたんだって」
「圭介さんバッ…！」
「会ったこと…」
圭介さんの問いかけに、彼女がゆっくり話し出した。
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作者名：あこ | 作成日時：2021年12月14日 15時
