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新曲の合わせが終わった日の夜、メンバーと飲みに行こうかという話に。
「おれ三茶がいい」
「理最近いつも三茶じゃない？」
「三茶にお気に入りの女でもいるんか？」
「いや、おれはあの街でやらなければけないことがあってだね」
「よくわからんがまあいいわ三茶で。久々だな〜」
メンバーといつも行く店で新曲の話をしたり、各々の最近の仕事の話、音楽談義に花を咲かすこと数時間、
「おれちょっとこのあと圭介さんとこ行くわ」
と早々に抜けてきた。
「理この頃ふわ〜としてない？」
「そうか？いつも通りじゃねえ？」
後ろから聞こえて来る言葉も耳に入ってるような入ってないような。
頻繁に来るようになって2ヶ月、この街を歩くときはいつもそわそわするようになった。
久しぶりに圭介さんのバーへ向かう。
「お願い」をして以来何度も来てはいるものの、圭介さんはいつも
「いないわそんな子」「というより目立った特徴がないから俺じゃわかんない」
と笑って言う。
圭介さんの様子を見て、確かにいくら顔が広いとはいえ無謀なお願いだったなと、この2ヶ月自分の足で三茶を歩き回ったり、いろんな店に顔を出したりしてみた。
いるわけないんだよなきっと。
あの時もう少し彼女と何か話してたら…。
自分でも何故そんなことを思うのかわからない、何故こんなにも必死になるのか、とちょっと自嘲気味に笑って圭介さんの店の前に着いた時、
「……傘」
店の前、鉄の傘立てに白い傘があった。おれにはあの日と同じ傘に見えた。
心臓の奥がヒュッとなる変な感覚を一瞬覚えて、襟を伸ばして店のドアを開けた。
「お〜理〜」
圭介さんの笑顔と、
誰もいない店内が目に入った。
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作者名：あこ | 作成日時：2021年12月14日 15時
