26 ページ26
翌朝目覚めるとAさんはいなかった。
焦って飛び起きる。
携帯を開いても彼女からの連絡はない。連絡先を交換していないから当然かと思い出して携帯を放り投げリビングへ向かう。
メモでもないかとテーブルを見下ろした時、玄関が開く音がして振り返った。
「…あ。おはよう…」
コンビニにでも行ったのか、手にはビニール袋。
いつもと違って目も合わせず、よそよそしく振る舞うAさんを見て思わず声を出して笑ってしまった。
「な、なに…」
「いや、なんでも」
彼女の態度で、昨夜のことが夢じゃなかったとわかる。
「何買ってきたの？」
「…湿布」
「しっ…？？」
照れた様子で、昨日のコンビニと反対方向にドラッグストアがあってね、と湿布を取り出し、腰に湿布を貼る彼女をびっくりして眺めていると、
「…誰のせい？」
とかわいく睨まれた。
後ろに座りおれです、と照れて抱きしめる。本当になんか。ものすごく照れる。にしても湿布って。
こんなに多幸感に包まれた朝をおれは知らない。
「ごめんね。…止まらなくて」
耳元で優しく言うと、おれの声に身体が少し震えた気がして、その反応を見てまた幸せな気持ちになった。
湿布とは違う甘い匂いに気づきAさんの顔を覗き込むと、ほっぺが膨らんでいた。
「…飴？」
袋を除くと、開いた飴のパッケージが目に入る。
おれにくれたものと同じ、オレンジ色の飴。
「ねえ」
彼女の横に座り直し、テーブルに肘をついてAさんの顔を覗き込む。
「どうしてうそついたの？」
「…」
「刈谷のサービスエリアで会ったよ、おれら。Aさんも覚えてるの、わかってるよ」
何か言おうと少し動いた彼女の口元を見て、被せるように言った。
「なかったことにしないで」
Aさんが顔を上げておれの目を見た。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 36人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：あこ | 作成日時：2021年12月14日 15時
