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窓を開けて部屋に戻ると、気づいたら彼女を後ろから抱きしめていた。
「煙草のにおい」
「くさい？」
「ううん、好き」
へらっと笑う。
「酔っぱらっちゃった？大丈夫？」
肩に乗った俺の頭を、アイスを持っていない手でわしゃわしゃ触る。
ずっとこうしていたい。ずっと触っていてほしい。
「Aさん、寒そうだから。寒そうなのに、震えながらアイス食べてるから」
「優しいね。ありがとう」
立ち上がりたいのか、体勢を変えようとした彼女に合わせて体を引く。
ストーブに背を向け、俺の方を向いて座るAさんと目が合う。
いつもなら恥ずかしくて逸らしてしまう目は、彼女を捉えて離そうとしない。
Aさんの瞳がゆれる。
かわいい人。
君と出会ってからも、何人もの女の子に言い寄られてきた。
前のおれなら気乗りすればすぐ誘いに乗って、翌朝酔いが覚めていくとともに苦い思いが心を埋め尽くしていたけど。
「Aさんと出会ってから」
「うん？」
「誰とも何にもしてないよ」
「ん？…うん」
もし君がKing Gnuのファンなら。
今までのおれを知っているなら。
部屋に置かれた、見慣れたCDに目をやる。
誤解のないように伝えたかった。
「Aさん以外の家に行ったことも、ないよ」
「ふふ。なあに？井口くんさっきからなんの話？」
「理」
「え？」
「…理」
「理、くん？」
名前を呼ばれ、胸がいっぱいになって、引き込まれるようにもう一度彼女に手を伸ばし、抱きしめた。
「もう…どうしたの」
と困ったように言いながらも、いつもの柔らかく優しい声に胸が温かくなる。
「酔ったならベッドいこ？」
と、ぽんぽんと優しく背中を叩かれる。
決してそういう意味じゃないんだろう。Aさんのことだから。
でも今までずっと溢れそうだったコップの水が溢れるには十分すぎるその言葉に、彼女の手を引いてベッドへ向かう。
彼女をベッドに座らせ、しゃがんでまた見つめる。
「理くん、なんか変」
目を逸らして笑った彼女の頬をすくって自分に向かせる。
おれを見て、と小さく囁いて、何か言いたげな彼女の唇にキスをした。
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作者名：あこ | 作成日時：2021年12月14日 15時
