白い傘、オレンジ色のあめ。 (ページ3)

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今日はツアー最終日。

あの雨の日から、歌う時はいつも必ずあの白い傘を思い浮かべるようになっていた。

「調子良さそうやなぁ」

リハ中の大希の言葉に、飴を思い出してドキッとする。

「ん〜」

「何か喉のケアでもしてんの？お前いつも何にもしねえから」

「たしかに、いわゆるボーカリストって加湿器バンバン炊いたりしてるイメージあるよね」

和輝も会話に入ってくる。

「いや…飴？飴を舐めてる」

「飴」

「そう…これ」

ポケットから5個入りの飴を出して見せる。
オレンジ色で、柑橘系のやつ。

「飴！喉に効くの？」

「まあ唾液出るし、潤うは潤うよね。なんかこれ舐めると調子いい、なぜか」

「へえ〜どこにでもあるやつ？」

「そう」

「俺も買ってみよ〜」

ベースを下ろしながら和輝が言った。

そう、どこにでもあった。
これは彼女からもらった飴、を見て買った飴。

何となくあの飴を舐めるのが勿体無くて、同じものを探した。普段飴なんて買わないから知らなかったけど、この飴は本当にどこにでもあった。
彼女からもらったのは、ずっと開けずに家に置いたままだ。

「よし、じゃあツアー最終日よろしく〜」

「あーい！」

ツアーファイナル、本番。
最終日は演者も客席も熱量がすごい。
数曲歌った後にはもう汗がだらだらと流れ落ちていた。

ステージからは本当に遠くまでよく見える。
「遠くの方もしっかり見えてるよ〜」
MC中そう客席に呼びかけぐるっと見渡した時、白い傘の彼女がいた、気がした。
ちょっと、かなり？驚いて一瞬フリーズ。

変な顔でもしていたのだろうか、そんなおれを見てメンバーが笑い、客席もつられて笑う。

次の曲中、歌いながらもう一度同じ場所を振り返っても彼女は見つからなかったので、気のせいだろうとざわつく胸を手で押さえた。