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次の日もまた一人でAzに行くと、彼女がいた。
テーブル席には何人か、カウンターには彼女と、彼女の横に常連らしき男がいた。
おれに気づき、周りにわからないくらいの小さな会釈をする彼女を見て、この人はきっとよく気がつく人なんだとわかった。
「こんばんは」
おれが声をかけると、こんばんは、と返す。あくまでも、「井口さん」とは言わない。周りと俺に気を遣って。
帽子とマスクを取り圭介さんにハイボールを頼んだところで、彼女の横に座る常連らしき男が「あ、井口さん？！」と声をかけてきた。
おそらく初めましてなので、相手が一方的におれを知っているのだろう。そうです、と小さく答えると「え〜びっくりした」と驚いていた。
そう、これが「普通の」反応。
「Aちゃんもここで井口さんに会ったことあるの？」
「ありますよ、何回か。ほぼ初めましてみたいなものですけど」
「え〜なんでびっくりしないの？何その薄い反応！」
うんうんそうだよねわかる、おれもあれ？ってなってる。
「仕事芸能関係だっけ？慣れてるの？」
「いや全く」
「だよね確か〜」
相変わらず驚き続ける男性に心の底から共感する。
「だって、芸能関係の方も外でお酒飲むでしょう。人間なんだから」
へらっと笑う彼女のその一言に、心臓をぐっと掴まれた気がした。
この人はー
この人は好きな人の前でも、苦手な人の前でも、総理大臣の前でも犬の前でも、きっとおでんの具総選挙の話をするんだろう。
この人の前では、みんな同じなんだ。
常連の男が会計を始めた。彼女にじゃあね、と声をかけ、俺と握手をし去っていった。
まだハイボールが来ず、入り口近くの席に浅く腰掛けていたおれは、空いた彼女の横に座った。
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作者名：あこ | 作成日時：2021年12月14日 15時
